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「ただいま、おかえり、おやすみ(呂呂)」
昼時を迎えようとした時刻、太守が城門を潜る。
遠征から帰った呂蒙は、久し振りの「我が家」に辿り着いたことに安堵のため息をついた。

嘗ての戦時のような長い期間留守にしたわけではないが、立場が違えが疲労の度合いも質も変わってくるものだと。
荷を降ろし馬を世話役に預け、居城へ足を向けた。

入り口で出迎える使用人に、留守の間の様子を聞く。
特に、この居城に住むもう一人。留守番をしていた彼について。

「呂蒙!!!!」
言い難そうにする使用人の背後から怒号が響く。当人のお出ましだった。
ドスドスドス。歩く音が人の足音とは思えない、地響きを鳴らして呂布が近づいてきた。
つまり、こうゆう状態だったと…。呂蒙は察してため息をつく。
「遅い!、予定では昨晩に帰るはずだ!、何をしていた!」
「怒鳴るな、ちゃんと説明するから」
「よし、聞こう。場所を変えるぞ」
「は?」
「さっさと来い」
「ちょと待て!、まだ仕事が」
「黙れ」
言うなり呂布は呂蒙の腕を鷲掴みにすると、ズンズンと城の中へ歩みを進める。
二人のやり取りを呆然と見送った使用人に、突然歩みを止めた呂布が振り返ると一言命令した。

「夕刻まで部屋に近づくな、他の連中にも言い付けておけ!」

只ならぬ覇気に当てられた哀れな使用人、顔面蒼白のままただ首を縦に振り続けて君主二人を見送るしかなかった。

「脱げ」
「開口一番に其れか?、いい加減俺も怒るぞ」
呂布の私室に連れ込まれ、真剣な顔で何を言い出すのかと思えばコレである。流石の呂蒙も呆れると同時に怒りも沸く。
遠征で疲れている時に、余計な疲労まで背負いたくはない。
「まずは話を」
「さっさとしろ!」
「呂布!」
「疲れているのが、お前一人だと思うな」
「何?、んっ?!」
突然の口付け。拒む隙も与えず呂布に奪われる。
逞しい腕が腰に回り、強靭な手が顎を、捕らえられ振り切れないまま貪られる口付け。
「んっ、ぅっはっ、りょ、ぅ…っ」
「黙れ」
角度を変え、深さを変え続く口付け。息をも奪われた呂蒙は次第に意識が霞んでいく錯覚に襲われる。
抵抗を止めた身体から力が抜け、申し訳なさ程度の力で指が呂布の服を掴む。
閉じられた瞼の端から滲む水気に、涙と見て取った呂布は静かに唇を離した。
「っ…はぁ」
「思い知ったか」
「何…を?」
呂蒙は熱の篭った息をつきながら、呂布に抱き留められた格好で身体を預ける。
顎を捉えていた荒々しい強靭な呂布の手は、今度は易しく呂蒙の髪を撫でる。
腰を捉えていた腕も、背中を撫でている。
「呂布、一体何が…」
「まずは休め、疲れているのだろう?」
「そうだが、コレでは余計に疲れが…」
「俺も疲れている、お前が居ないと満足に眠れん」
呂布が一時の衝動をやり過ごしたのか、呂蒙に対して態度が柔らかく労わる様な仕草に変わる。
しかし、手の動きは当初の目的を忘れていないようで、呂蒙の衣服を次第に脱がしてゆく。
「…仕方のない奴だ」
「お互いにな」
呂布が何故この様な行動に出たのか、意図を汲んだ呂蒙は苦笑いだけで許した。

大方この後も休まずに政務を執り、結果無理が祟り体調を崩すと踏んだのだろう。
確かに遠征中の事例をまとめ、留守中に溜った政務も片付けたい。その為には多少の無理も目を瞑る。それが呂蒙というこの居城の太守だ。
それを分かった上で、強引にねじ伏せ一見乱暴するようなやり方でしか労われないのが、呂布というこの居城の太守を補佐する副官だ。

そんな二人が、力を合わせ、身体を合わせ守る城。



寝台に横になれば、抱き枕のようにしっかりと捕まる。
「因みに、寝るだけだろうな?」
「何だ?、それ以外もして欲しいのか」
「それはまぁ…日を改めて、だな…」
「分かっている、やる気のない身体を抱いてもつまらんからな」
「お前はやる気を減らしてくれ…」
ぶつぶつ独り言を呟きながら、大人しく腕に埋もれる呂蒙の肩に布団を掛ける。
人肌が伝たわる。
あたたかい、ぬくもりが愛しい。

「呂布、ただいま」
「よく戻った、呂蒙」
「んむ…、おやすみ」
「ああ、休め」


結局、二人が目覚めたのは次の日の朝だった。

こんな太守と副官に守られた城の住人達。

使用人たちの気遣いで、ありがたいやら困ったやら、放置されることも日常茶飯事。


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