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「婚前報告(丁蒙)」

丁奉×呂蒙

『身を固めることにした』と。
呂蒙は落ち着いて一言、陸遜と甘寧と凌統の前で告げた。
想い続けてきた、願いを叶える頃だとも告げた。
相手もそれを望んでいる、告白を受けた時の言葉を思い浮かべた呂蒙は、恥ずかしそうに微笑んだ。

その顔を見た三人は、反対の言葉を口にすることができなかった。

「呂蒙殿が…嫁がれる…側で、ですか?」
「おっさん…本気か?」
「相手、間違ってないよね?、分かってて言ってんの?」

反対はしないが、納得のいかない疑問の言葉は次々と口をついて出た。
困ったように答える呂蒙は、やはり笑顔だった。
「俺の事をまるで青天の如く澄んだ心で慕い、時に嵐に荒れる海原の如く戦場を駆け、揺るぎない大地のとなり俺を支えてくれくれる、そんな相手は後生巡りあえんだろうな」
「おっさん…何か恥ずかしいぜそれ…」
「口調までうつっちまう位べた惚れってことか」
「うぅううっ…呂蒙殿…っ」
三者三様、呂蒙の新たな門出を祝福した。

一番身近にいる者達に真っ先に知らせた、そして色々言われながらも祝福された。
次第に実感がこみ上げてくる、婚姻と言う意思の重み。
逃げも拒みもしない、背負ってゆくと決意した。

大きな歩調が背後から近づく。振り返らなくても分かる愛おしい相手の歩みの音。
これから隣で共に歩んでゆくと、誓いを立てる相手。

「呂蒙殿」
「丁奉、お前も報告を済ませたか?」
丁奉が大きな身体を弾ませ駆け寄る姿は、躾の良い飼い犬のようだ。
愛らしさに自然と笑みが浮かぶ呂蒙は、改めて惚れているなと実感した。
「はい!、皆祝福の言葉を下さいました!」
「そうか…よかったな」
「呂蒙殿は…如何でしたか?、その…」
見上げた顔が少し歪む、心配そうに申し訳無さそうに呂蒙を窺う。
「某のような者が相手とは…反対されたお方も…」
「心配するな、逆に俺には過ぎた相手だと羨ましがられたほどだ!」
何を気にしているのかと、何の事でもない様に呂蒙は笑い丁奉を安心させる。
身分の違い、位の違い。
人の価値を隔てる物も、元は人が勝手に決めたものだ。それなら人が勝手に変えても良いのだ。
丁奉の性格からか、どうしても自身を下に置いて呂蒙を見る。
それが少し気がかりだった、これからは同じ位置で立ちたい、公私共に従えるための婚姻ではないのだと。
「丁奉」
「はい」
現実には呂蒙の方が背伸びをして見上げるほど、二人の身体の差は大きい。その方が呂蒙にとっては気がかりだった。

「お前の許しがなければ、俺は口付けもままならん」
「は、はいっ?」
そっと身を寄せる、逞しい胸元に頭を預ければ鼓動の音が耳に届く。
「これからは…お前のものだ、遠慮しなくても良いぞ?」
「うっ、うむぅ…しかし、呂蒙殿…某は誓いを立てるその日までは貴方に従う身であります故、それは冬の次に春が廻るが如く、川が山から海原に流れ込むが如く…守られる順序を…」
「ふ、ふははははっ」
丁奉の緊張で慌てながらも何時もの詩情溢れる表現は変わらず、そんな所も愛おしい。
これは呂蒙の方が慣れねばならない、変えられない順序なのかもしれない。
「では誓いを立てた日に、初夜を楽しみにしておこう」
「あぁ…何と言う幸福!、春に芽吹いた稲穂が一瞬で実を結び収穫できたような奇跡…、そう!正に某の愛は奇跡!」
「分かった!分かった!、流石に俺も恥ずかしくなってきた…」
照れ笑いの呂蒙の笑顔。
見とれている丁奉に飛び付くように口付けしたのだった。

その日の内に、二人の噂は祝福と共に広まった。


「よし!、祝言は国を挙げて盛大に祝おうぞ!」
「お止め下さい!国費を使うのはお止め下さい!」
宴会好きな孫権の一言に、側近たちは必死に阻止した。


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