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「触れ合う日常(呂呂)」
冬の昼下がり、寒さの中に微かな暖かさを交える陽が射す部屋。

いつものように書物庫に籠もり、集めた書物に目を通しながら整理している呂蒙。
居城の太守として、ようやく落ち付いてきた頃に集め始めた様々な知恵を書き留めた書簡。
孫呉の都に残してきた自身の物や、手配して写本にしたもの。
そして、この居城の復興進捗を記したもの。

どれを取っても、呂蒙にとって大切で興味深い書簡だった。

手に取り、内容を確認すると棚に戻す。
そんな作業を繰り返し、一人の時間は過ぎてゆく。

足音が聞こえた。聞慣れた歩調と靴を鳴らす音。次第に近づき呂蒙の背後で止まる。

「いい加減に、籠もるのは止めろ」
「これも仕事の内だ、致し方あるまい」
不満を言う呂布に、振り返らずに答える呂蒙。背後でため息が聞こえると、突然肩を捕まれ向き合わされた。
「俺に探させるな。一言言い置け」
「別に探し回るほど急ぎの用もあるまい、それに、俺が此処に居ることは想定内なのだろう?」
「それでもだ、勝手に側を離れるな」
「何故だ?」
「お前は俺のものだからだ」
「はぁ・・・、勝手なことを」
呂布のこうしたわがままは、共に居城に住むようになって大分月日が過ぎた今でも、時折呂蒙を困らせる。
独占欲と心配性。
両方を会わせ持つ呂布のわがまま。それを宥める術もいつの間にか身に付いてしまった。

其れほどに、二人の仲は親密になっている。

「俺が遠征に赴いている間、呂布がどのような振る舞いをしているか・・・。考えただけで仕事に手が付かん。もう少し自重してくれないか?」
「俺にこれ以上何を要求するつもりだ、大人しく城に留まっているだけでもありがたいと思え」
「その話は…もう済んだことだ」

義務から始まった情交。
共に在ることを条件とした約束ごと。

奪うように求められた、それは愛。

向き合い見つめ合っている二人。呂布が少し身を屈めて呂蒙の顔に近づく。
もう少しで唇が触れ合う、その一瞬に何を見定めているのか。
触れ合う唇に、言葉は消える。

肩を押され背後の棚に押し付けられ、呂布の身体が覆いかぶさる様に呂蒙の動きを封じる。
「呂蒙、次の遠征は長いのか?」
「いや、長いというほどでは…」
「そうか…」
「呂布?…んっ」
再び触れ合う唇、歯を立て舌を絡めて繰り返される口づけ。
時折もれる甘い吐息が、二人きりの部屋の中に響く。
数日後にはまた城を留守にする、その間は呂布が政務を取り仕切る。
互いの責任を負う日々の中、一人きりの夜を過ごす。
触れ合えるのは、今しかない。

「ぅ…んっ…りょ…ふ」
「呂蒙」
「ま…此処で…ぁっ」
密着した身体に伝わる熱が欲を孕んでいる事に気付き、呂蒙は離れようと身を捩る。
呂布はそれを有無を言わさず封じ込め、唇を呂蒙の首筋へをなぞりながら滑らせた。
肩を抑えていた手は胸へ、着物の襟から中へ指を忍び込ませると、人肌に触れ熱を感じ取る。
「駄目だ呂布っ!、誰か来たら…あっ」
「心配要らん、お前が此処に居る間は誰も足を踏み入れん…呂蒙」
「うっ…ふ…止めっ、んんっ!」
呂布のもう片方の手が呂蒙の下肢を弄ると、躊躇うことなくその中心へ指を這わせた。途端に跳ねる呂蒙の身体を背後の棚へと押し付け逃げ道を塞ぐ。
このまま事に及ぶにはまだ陽は高く、仮にも仕事をする場での行為に呂蒙の中の良識が拒否を示す。
それでも呂布は手の動きを止めようとはせず、徐々に呂蒙の身体に淡い熱を呼び起こしていった。
「暫く触れられんのだ…呂蒙」
「は…ぁっ…呂布…」


カタン…

呂蒙の手に持っていた竹簡が床に落ちる音、その音に我に返り呂蒙は受け入れそうになった身体を叱咤して呂布の胸に手を当て押し返した。
「呂布!、本当に此処でするつもりか?!」
「場所など関係ない、今お前が欲しいのだ」
「うっ…、やはり駄目だ。此処では応えてやれん…」
求める欲を隠そうとしない呂布に、呂蒙は恥ずかしさと共に困惑する。ある意味では真摯に思っているからこそ情交を望むのだろう。
しかし、時と場所は弁えて欲しい。
「俺が嫌か?」
「そういう聞き方は…卑怯だぞ」
「ならば良いな?」
再び身を寄せ口付けようとした呂布に、両腕で我が身を庇う様に身を硬くして顔を背ける呂蒙。
一方的に受け入れなければならない、そんな関係は終わったのだ。
「俺の意思も、尊重してくれ…」
「何だ?」
拒んでいるのは嫌悪からではない、呂蒙の僅かに上気した頬の色に確信を持ちつつも呂布は敢えて問い質す。
「その…色々と辛いのだ」
「何処が辛いと?」
「受け入れる俺に身も…考えてくれ…」
「…なるほど」
羞恥に更に頬を朱に染めた呂蒙の真意を察した呂布は、事後の呂蒙の身体を思い返す。
確かに色々と辛いだろう、此処では後始末も満足には出来ない。

無理矢理身を暴かれ、欲を浴びせられ穢れた身体。
初めて交わった後に、傷付いた呂蒙が辿った事態に思い至ると、呂布は静かに身を離した。

「分かった」
「呂布…」
「夜にお前の部屋に行く。身を清めて待っていろ」
呂蒙の身体を押さえつけていた呂布の手は、今は優しく労わるように顔を撫でている。欲に切羽詰った表情は影を潜め、凛々しく男らしい笑みを浮かべて呂蒙を見つめる。

約束を口実に義務を背負わせていた、二人の関係は変わったのだ。

共に在る、対等な関係で有り続けると。

「此処ではやる気にならんのだろう?、どうせならやる気のある身体を愛でたいものだ」
「やる気が無いわけでは、無いのだがな…」

何時如何なる時も、呂布の要求に応えること。
嘗て二人の間に交わされた約束は、心の通わぬ交わりだった。
何故求めるのか?。其処から何を得るのか?。
自問自答を繰り返し、辿り着いた答えは自身を辱めた者への愛おしさだった。

呂布は愛を知っている。心から他人を愛することが出来る人間。
暴君や鬼神と恐れられた男も、愛が無くては生きて行けない。そう気付いた時、呂蒙の心の中には呂布に対して恐れや憎しみは消えていた。

求められ応えれば、其れに対して誠実に答える。実際に呂布は呂蒙の留守の間に居城の復興を進めていた。

繰り返した義務の行為。それが互いの想いへと変わった。
今では心無くして交わることは無い、求めているのが単なる肉欲ではない事を、何より呂布本人が承知している。

今もこうして、話し合えば呂蒙の身を案じてくれる。

だからこそ、呂蒙も応えたいと思う。真摯に受け止め返したいと願うのだ。その為にはどうしても超えられない葛藤も残る。

「呂布、その…今ではないのか?」
「嫌といったのはお前だろう」
「お前の部屋でなら、今でも構わんが…」
「呂蒙?」
「俺の意思を、尊重してくれたから…な…」
語尾の方は消え入りそうに小さな声だが、呂布の耳には最後まで聞こえた。
求めれば応えてくれる。其れが堪らなく嬉しかった。

「ならば、存分に愛でてやろう」
「お手柔らかに…頼むぞ」

今度は拒まれること無く、口付けを交わす。
求められる幸福をかみ締め、二人は歩き出した。




(互いに絆されて相思相愛になってまだ日が浅い頃。まだ手探りの愛情の交わりを繰り返す日々。其れが日常)
(初めての事後…皆様のご想像通りの痛々しい事態と呂蒙が初物だったこと)

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