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「おはようのお約束(呂呂)」


夜の闇と朝の光が交わる刻。

窓の外から聞こえるのは、遠くに流れる運河の川音。
静まり返った部屋、聞こえるのは二人の呼吸と鼓動だけ。

大きな寝台の真ん中で、寄り添って眠る二人。

目覚めて気付く、もう一人の体温。
呂布はゆっくりと身を起こすと、隣で眠る呂蒙を見る。
静かな呼吸に合わせて、微かに揺れる肩。呂布に背を向けて布団にもぐりこむ様な寝姿に、自然と笑みが浮かぶ。
呂蒙の長い髪が枕元に広がり、手に触れた。

手に掬って指先でなぞれば、癖のある髪が良く分かる。
この髪を振り乱すように、情事に溺れる姿を思い出す。

無理やり身体を暴いた、初めての夜。
誘われて抱き合った、昨日の夜。

乱れる姿でも全く違った意味を持つ、昔と今。

縋ることも強請ることも、求めることすら戒めていた関係から、無償の慈しみを分かち合うまでの間、呂蒙がどれほどの葛藤を乗り越えてきたのか、呂布には分からない。

分からなくとも、今は愛しさで満ち足りる関係になった。
それでいいと、呂布は思っている。
過ぎた事を深く詮索しても、呂蒙が困るだけだと。

はらり。

髪が流れ落ちた下から、首筋が覗く。
其処に残る、紅い跡。

呂布は今度はその紅い跡を指でなぞる。項の近くにもう一つ。
此処なら人目につき難く、付けられた呂蒙自身も言わなければ気付かれない場所。

所有者の刻印。日が経てば消えてしまうが、また付ければいい。

「…何を、している…」
「起きたのか」
呂蒙はゆっくりと身体を動かし、仰向けになり呂布を見上げた。
掠れた声は昨晩の情事の名残、少々啼かせ過ぎたかと思うも、改めようとは思わない。

「陽は…昇ったか?」
「まだだろう。もう少し眠れ」
「いや、起きなければ…今日の政務は…確か北側の街道の整備…」
「呂蒙、此処で仕事の話はしない約束だ」
「あぁ…そうだったな、すまん呂布」
気だるそうに身を起こし、瞼を擦る呂蒙の手をとり抱き寄せる。
少し冷えた空気に触れ、素肌の温かさがより一層感じた。
「今朝は冷えるな、もう直ぐ山には雪が降るだろう」
「冬になれば、次は新年の準備だな」
「これからはもっと忙しくなるぞ、その間に俺は遠征に出て、次は」
「それは仕事の話だ、いい加減覚えろ」
呂蒙の頭を抱き込んで、言葉を塞ぐ。つまらない話は聞きたくない、今は二人きりの貴重な時間なのだ。
一日の始まりに、隣で肌を合わせる想い人より仕事の話をする、そこが呂蒙らしい。
抱き込んだ胸元で、笑う気配を感じる。
「仕事に妬いたか?」
「…悪いか」
「いや、嬉しいぞ」
顔を見合わせどちらとも無く噴き出した。
朝からなんと言う馬鹿馬鹿しい会話。

一頻り笑った後、朝の挨拶代わりに口付けを一つ。

今日も一日、二人で平和に過せますように。


「呂蒙、首元には気をつけろ」
「首?、さてはお前…また跡を付けたな」
「その跡が消えるまで、暫く控えよう。忙しくなるのだろう?、休む時間は貴重だ」
「呂布、気遣いはありがたいが遠慮は要らんぞ、溜め込むと余計に疲れるからな」
「呂蒙…以前はもっと慎みがある奴だと思っていたが…近頃は明け透け過ぎるぞ」
「お前に言われたくない」




(一緒に朝を迎えて今日の事を話し合える、当たり前の幸せを手に入れるまでの紆余曲折があるから、余計に幸せを感じる呂呂)
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