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jun 小説サンプル

『僕の終わりと僕の始まり』11P


 懐から取り出したナイフを握り締め、僕は若者を目がけそれを突き出す。その切っ先は若者の服の袖を裂き、彼の腕を掠め、それなりに深い切り傷を負わせることに成功した。だが、そのことによって逆上した若者に力いっぱい腕を払われ、僕の持つナイフは呆気なく宙を舞って雪の上へと落ちてしまった。立て続けに頬を殴られ、腹を蹴られた僕は、降り積もる雪の上に崩れ落ちる。血が滲み、鉄の味が広がる口の中、歯を食いしばり何とか上体を起こした僕だったが、目の前に立ち塞がる若者がナイフを手にしているのを確認し、観念せざるを得なかった。

 そう、僕はここで『終わる』のだということを。

 母を殺した若者へ復讐を果たそうとしたのだが、喧嘩すらほとんどしたことのない僕にとっては、この粗野で乱暴で力の有り余った相手を制することは、やはり荷が重すぎたようだ。今更ながらその復讐の無謀さを痛感した。だが、決して後悔をするつもりは無かった。何故なら、この理不尽な世の中で自分の信念を曲げてまで、こそこそと生きていくことなど僕には出来そうに無かったから。



 下品な笑いをその顔に浮べながら、若者がナイフを振り上げた。僕は俯き、目を瞑り、せめてこの『悪』が裁かれることを祈りながら人生の幕引きを待った。

「な、何だ? お前! 邪魔するつもりか?」

 だが、唐突に上げられたその若者の声に、僕は目を開き、恐る恐る顔を上げた。その刹那だった。

「ぎゃあ!」

 ドサッ!

 目の前を白刃の閃光が舞うと、若者が断末魔の叫び声と共に血飛沫を上げながら、僕の目の前に倒れ、そのまま突っ伏して動かなくなったのだ。何が起こったのか把握しきれないまま見上げる僕の瞳に、金髪の青年の姿が映った。彼は倒れる若者を無表情で見下ろしつつ、手にした刀を払って返り血を飛ばし、そのまま鞘へと納める。ダッフルコートにマフラー姿の金髪の青年が日本刀を手にしている姿は、本来違和感を伴うものであるはずなのだが、青年にはそのような不自然さは全く無く、むしろその刀を扱う仕草がとても洗練されていて、思わず見惚れてしまいそうになった。

 だけど、どうしてこの人は僕を助けてくれたのだろう。
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