『こころが生み出す闇』10P 予定より少し遅くなって帰宅した僕は、手早く夕食の支度を済ませた後で、リビングのソファーで横になっていた。 彼女と別れた後辺りから、気分が優れない。途中、何度も立ち止まりながら、漸く家に辿り着いた。 「何か、もうぐちゃぐちゃだ…」 気分だけじゃなく、思考も何もかも、全てが。 「とても言えそうにないな…」 先程あった出来事を口にするのは、躊躇ってしまう。あの人に余計な心配はかけたくはない。 静かに目を閉じると、そのまま意識が吸い込まれていきそうになる。 このまま、眠ってしまおうか…。 でも、あの人をいつものように、迎えなくては…。 考えることは出来るのに、身体がままならない。瞼もまるで、鉛を付けたかのように、重い。 すると、遠くから物音が聞こえてきた。 それに次いで、ドアが開く音。人の歩く気配。 「…俄雨?」 小さな、こちらの様子を窺うような囁きは、大好きな人のもの。 目を開けて、おかえりと言いたいのに、そんな簡単なことが出来ない。声を出すどころか、顔を向けることもままならない。 「こんなところで寝ていると、風邪を引いてしまうよ?」 優しく窘めるように紡がれる声は、ひどく心地良くて、そのまま眠ってしまいたくなる。 やがて、身体を包み込むような暖かさを覚えて、更に僕の意識を奪っていく。 そうして本当に、僕の意識は沈み込んでいったのである。 [*前へ] [次へ#] [戻る] |