ハルヒSSの部屋
古泉一樹の情操教育


『シンデレラは愛の教科書』

長門「即興で話す技術を会得したい」
古泉「……で、なんで僕なんでしょうか?」
長門「貴方が一番嘘が巧い」
古泉「……えっと、長門さん。それは褒め言葉ではありませんよ?」
長門「了解した。嘘が巧いは褒め言葉ではない」
古泉「まあ、評価して頂けるのは結構なのですが、しかしいくら僕でも何のネタも無しに話す事は出来ません」
長門「お題なら用意した」
古泉「なるほど、用意が良いですね」
長門「コレを読んで欲しい」
古泉「図書館で読み聞かせをするお兄さんになった気分ですよ」

古泉「シンデレラ、ですか」
長門「そう」
古泉「それで、シンデレラの何が知りたいのでしょうか?」
長門「なぜ、ガラスの靴の魔法だけが解けなかったのか、が不明瞭」
古泉「ふむ……なるほど。分かりました。では、始めましょうか。シンデレラの逸話を」
長門「よろしく」

古泉「12時の鐘が鳴ってシンデレラが走り去った後、そこにはガラスの靴だけが残されました。言うに及ばず、そのガラスの靴は魔女が彼女に魔法でくれたもの。それは十二時で粗末な靴に戻ってしまう……筈でした」
長門「そうでなければオカしい」
古泉「ですが、それは……それだけは王子の手元に残りました。そこから導き出せる結論は一つしか、ありませんね」
長門「愛の奇跡」
古泉「おや、長門さんらしくない台詞ですね。いえ、まあそれでも構いませんが……今回はもう少し話を膨らませてみましょうか」 
長門「どんな風に?」
古泉「実はガラスの靴。それだけは本物だったんですよ。こんなのはどうでしょう?」
長門「思いもよらなかった。新境地」
古泉「ありがとうございます」

古泉「なぜガラスの靴は本物だったのでしょうか? 理由は単純です。それが無ければ彼女は王子と再会する事が出来なかったからですね」
長門「なるほど」
古泉「では、シンデレラが走り去る場面で彼女が履いていたガラスの靴が脱げてしまうのは、未来人風に言えば規定事項、と。そうなるのではないでしょうか」
長門「幼児向けにしては中々奥深い設定」

長門「この作品に関する評価を改める」
古泉「さて、もう少し遡って考えてみましょうか……なぜ、魔女は彼女に本物のガラスの靴を与えたのでしょう?」
長門「察するにシンデレラと王子を引き合わせる為」
古泉「そうですね。魔女は最初から再会を考えていた事になります」
長門「疑問」
古泉「どうぞ」
長門「どうして魔女はシンデレラと王子を引き合わせなければならなかったのかが分からない」
古泉「そうですね。僕はそれに関して二通りの考え方が出来ると思っています」
長門「二通り?」
古泉「そうですね……一つ目は朝比奈さんの様なケースです。魔女は、実は二人の娘だった、とか。どうでしょう? お気に召しませんか?」
長門「ご都合主義。どうやって未来から過去に飛んできたのか説明を求める」
古泉「お忘れですか? 彼女は魔女なんですよ。カボチャから馬車を作り出し、ネズミを白馬へと変える魔法の使い手です。ならば時間遡行が出来たとしても大した不思議ではないかと」
長門「なるほど。つまり、両親の馴れ初めに娘が係わった」
古泉「そういう事です」
長門「娘が居なければ二人は出会わなかった事になる」
古泉「ですが結果的には出会って、二人の間に娘が産まれているので、ちょっとしたタイムパラドックスと言ったところでしょうか?」

長門「シンデレラにそんな深い背景が有るとは……恐れ入った」
古泉「そういう言葉、どこで覚えてくるんですか?」

長門「貴方は先程『二通りの考え方』が有ると言った。説明を」
古泉「シンデレラには二人の姉と意地悪な継母が居るんですよ」
長門「知っている。貴方にこの絵本を差し出す前に全ての文章を記憶した」
古泉「さて。では、実の母親はどこに行ってしまったんでしょうね? コレが二つ目の考えです」
長門「それは盲点だった」
古泉「昔の話ですので離縁とは考えにくいですね。では、死別と。そう考えるのが一番自然でしょう」
長門「……死別」
古泉「さて、そんな天国のシンデレラの母親ですが、日夜虐められている実の娘をどうして放っておく事が出来るでしょうか。そこで彼女は神様に頼んで頼んで頼み込んで、一つだけ願いを聞いて頂きました」
長門「神様も中々懐が深い」
古泉「つまり、魔女として娘の幸せをカバーしてあげる事です」
長門「……母親とは娘の為にそこまでするもの?」
古泉「その人が本当に『母親』と呼べるものであれば、必ず」
長門「人間は凄い」
古泉「何がですか?」
長門「娘とは言え他人。他人の為に死んでさえも尚尽力しようとする。それが私には考えられない」

古泉「いえ、お伽話ですよ?」
長門「……貴方が話すと真実味が有る」
古泉「それは嬉しいですね」

長門「このお話の総括は?」
古泉「愛する人の為ならば、死さえも、時間さえも超越する事が出来る、と言った所でしょうか?」
長門「非、現実的」
古泉「そうでもありません」
長門「なんでそんな事が言えるの?」
古泉「僕は長門さんや僕や涼宮さんが居るこの世界の為に世界を越えて頑張っている人を知っていますから」
長門「彼の事?」
古泉「ええ」

長門「分かった、信じる。魂は凄い。偉い」
古泉「僕もそう思います。ですが、どちらかと言うと魂よりも人の心ですね」
長門「心……?」
古泉「そうです。貴女が今、僕の話を聞いて何を考えているのか。それは僕には分かりません」
長門「貴方の考えている事が私に分からないように」
古泉「そうです。ですが……」

古泉「貴女が僕に絵本を差し出してくれた時、僕の話を聞いてくれていた時。少し嬉しかったですよ」
長門「何が?」
古泉「貴女にもちゃんと心が芽生えているのだな、と。そう、思いました」
長門「私にも、心が?」
古泉「ええ」

古泉「さて、僕の話はこれで終わりです。どうでしょう、ご納得頂けましたか?」
長門「よく分かった。古泉一樹、感謝している」
古泉「光栄です」
長門「また、絵本を見繕ってくる。その際、読んで貰いたいと、そう思う」
古泉「ふふっ」
長門「何が可笑しいの?」
古泉「長門さん、どれが『心』ですよ」
長門「?」
古泉「今は分からなくても大丈夫です。追々、僕と一緒に勉強しましょうか」


長門「……楽しみ」


追記:シンデレラの冒頭は、幸せなパパママと暮らすシンデレラ。ところがママが病死。毎日墓の前で泣くシンデレラを思ってパパは再婚。その後パパも病死 。そして本編へ。
古泉がシンデレラの実母がどうなっていたのかを知らなかったのは、長門が差し出した絵本が幼児向け(虐められてる所からスタート)だったと思って下さい。


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