ハルヒSSの部屋
古泉一樹の情操教育 2
『君と僕と三匹のこぶた』

古泉「おや、珍しいお客様ですね」
長門「また、読んでいて疑問点の生じる絵本を見つけた」
古泉「それはそれは。で、何というタイトルでしょうか?」
長門「三匹の子豚」
古泉「名作ですねぇ」

長門「貴方は前回、親の子を想う気持ちの強さを私に説いた」
古泉「そうですね」
長門「しかし、今回読んだこの絵本でそこに疑いが生じた」
古泉「詳しく教えて頂けますか?」
長門「子豚の母親は残念ながら非情だった」
古泉「と、言いますと?」
長門「彼女はきちんとした家の造り方すら教えずに飢えた狼の徘徊する丘へ子供を放り出した」
古泉「なるほど」
長門「それについて私が出した結論は『間引き』。三、現実は非情である」
古泉「だから、そういった引用をどこで覚えてくるんですか?」

長門「しかし、絵本は子供の模範とならねばならない物。現実の厳しさを早々と教える物ではないと推察出来、そこに矛盾が生じた」
古泉「つまり、母親が子豚を外界へ出した理由が知りたい訳ですね」
長門「そう。納得出来る回答を要求する」
古泉「分かりました。では、始めましょうか。長門さんの疑問に対する僕なりの回答を」
長門「期待している」

古泉「さて……では最初に一つ仮定をしておきましょうか」
長門「どんな?」
古泉「三匹の子豚に出てくる母親は善である、という仮定です。言うまでもなくこの絵本は子供向けですので、母親がそうである事に疑いを持つ訳にはいきませんね」
長門「ぜん……ウイスキー?」
古泉「それは作者の大好物です。この場合は思慮深く優しい、という意味だと思って下さい」
長門「了解した」

古泉「では、善である筈の彼女はなぜに子供達を追い出したのでしょうか。これに関する答えは物語の中で既に示されていますね」
長門「?」
古泉「この絵本の主題……伝えたい事は『努力の大切さ』と『他者を受け入れる優しさ』です。ここまでは分かりますか?」
長門「多少」
古泉「結構です。さて、彼女はそれを子供達に気付かせるために家から出した訳ですが」
長門「気付く前に狼に食べられる危険性があった。それでは本末転倒」
古泉「では、その恐れが無かったとしたら、どうでしょう?」
長門「説明を」
古泉「狼が藁と丸太の家をどうやって壊したかは覚えていらっしゃいますか?」
長門「息?」
古泉「そうです。しかし、よく考えると不自然ですよね。僕なら腕力に任せて壊すなり、食い破るなりさせた方が『狼』として自然だと感じます」
長門「……狼ではなかった?」
古泉「そう考えるのが自然かと」
長門「……では、アレは何?」
古泉「この『三匹の子豚』という物語ですが、出て来てもおかしくないのに一度も出て来なかったキャラクターがいらっしゃるのにはお気付きでしたか?」
長門「……誰?」
古泉「お父さん豚ですよ」

長門「……確かに記述が無い」
古泉「さて、ここで先程の疑問に立ち返ります。狼は家を壊す行為になぜ『息』を選んだのでしょうか?」
長門「なんで?」
古泉「『息』しか手段が無かったから。そう僕には思えます。そして息で家を吹き飛ばすという芸当が出来そうな動物は……少なくとも狼よりは豚の方が適任ですね」
長門「……なら、狼は」
古泉「狼の皮を被ったお父さん豚、と言った所でしょうか」

古泉「結論としてこの物語は両親が息子達に生き方を教えようとした、そういう話ではないかと考えられますね」
長門「無責任な母親だと考えた事を深く謝罪する……吊ってくる」
古泉「いえ、前回同様全て僕の想像ですから……ああっ、長門さん! 早まらないで下さい!」
長門「頑丈なロープを情報結合……」

長門「……暖炉に焼かれたのは?」
古泉「子供達に生きていく自信を持って頂く為かと。火傷を代償に彼は息子同士の絆を作ったんです」
長門「……大活躍」
古泉「本来、父親とはそういうモノですから」
長門「貴方も?」
古泉「は?」
長門「貴方も子供が出来たら暖炉に飛び込む?」
古泉「流石に暖炉に飛び込んだりはしませんが……それに近い事はするかも知れませんね」
長門「そう」

古泉「……さて、僕の話は以上です。疑問は解けましたか?」
長門「解けた。収穫も有った。感謝する」
古泉「いえいえ。楽しんで頂けたのなら何よりです」
長門「……貴方はきっと、良い父親になる」
古泉「そうですか? ありがとうございます」

長門「……私も頑張る」
古泉「えっと……何を、でしょうか?」
長門「秘密。……とりあえず三人」
古泉「何がですか!?」
長門「大丈夫。産み分けは任せて」
古泉「……最近、とても人らしくなってこられましたね……いえ、嬉しいんですよ?」

古泉「……深く追求するのはよしましょう。しかし、自分で語っておいてこんな事を言うのも変な話なのですが、絵本も深読みをすると中々面白いものですね」
長門「マイブーム」
古泉「この『三匹の子豚』という話も、取りようによっては『三本の矢』の逸話のようで興味深いです」
長門「説明を」
古泉「では、ついでですので『三本の矢』の話を」
長門「……貴方の話を私は非常に心地良いと感じている」
古泉「? 何か言いましたか?」
長門「何でも無い」


長門「……鈍感」

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