ハルヒSSの部屋
涼宮ハルヒの戦友 幕間
『男は恐怖に立ち向かうのさ』

佐々木さんの戦友

勇者たる少女は男を眺めている。そして拳を握った。
「この世界の平穏と一人の男なら天秤に載せる以前の問題、ね。君の言う通りだよ。嗚呼、うんざりするほど君達は正しいさ」
周りを無数の人形に囲まれていながらも、少女は鮮やかな笑顔を崩さなかった。
「だけど」
握り締めた拳から血が滴り落ちる。
「そんなんじゃ意味が無いんだ」
彼の親友は腰に挿した聖剣を躊躇わずに抜いた。
「僕は頭が悪いからね。諦めも悪いのさ」


『悪いが俺が一番乗りだ』

朝比奈さんの戦友

少女は其の絶望的な戦力差を前にして、溢れる感情を抑える事が出来なくなっていた。
「敵が……嗚呼、数えるのも無意味なくらいに沢山います」
言って、抑え切れない思いが胸中に木霊する。
「キョン君に『無理はするな』って言われましたけど、其れは無理な話ですよね」
少女は其れだけ言うと明日への未練を意識的に、そして一方的に絶った。最後に親友による制止の叫びを聞いた様な気がしたが、気の所為だと思い込む。
「一度言ってみたかったんです。これまでずっと、私は守られる側でしたから」
少女は大天使の様な笑みを浮かべ両手を天高く翳した。
「此処で命を賭けずに何処で命を賭ければ良いんですか?」



『時代を築くぜ かかってきな?』

朝倉さんの戦友

少女は迫り来る敵を前にして冷酷な笑みを浮かべていた。
「此処から先は侵入禁止よ」
無慈悲にそう呟く。体を炎に炙られながら、其れでも決して膝は折らない。
「キョン君が私の大切な想いを守ってくれている限り、私は彼の大切な想いを守り続るわ」
振りかざした剣から上った紫煙が揺れている。
「例えこの体が千切れようとも……其れが私の、私達の覚悟だから」
消え逝く泡沫は、其の儚い存在の全てを言葉に乗せた。
「誰にも折れない。私は今、間違いなく此処にいる」


『敵は唯一 俺自身だろ』

古泉くんの戦友

少年は親友に背を預ける心地良さを噛み締めていた。
「矢張り、僕の背を預けられるのは貴方しかいません」
背後の男が舌打ちするも彼は構わずに言葉を続ける。
「そして、僕の、僕達の居場所は確かに此処に有ったのだと、そう思いますよ」
笑いながら矢を放ち、また一体の魔物を夜へと還す。
「取り戻しましょう、偽りでなく、僕達が心から笑い合える居場所を」
何の仮面も被らない、一人の少年としての笑顔で彼は笑った。
「一緒に、取り戻しましょう。ねぇ、マイヒーロー?」



『ひたすら鍛え続けりゃ良いだけのハナシ』

長門さんの戦友

少女は愛する者の両肩に手を置いた。そして静かに静かに語り出す。
「私は之から私にしか出来ない仕事をする」
見つめる愛しい男の瞳の中に自分の姿が映っている。
「貴方の今の仕事は何? 私達のサポートをする事?」
瞳の中の男は愛しい娘の成長を見守るように微笑んでいた。
「貴方が今すべき、貴方にしか出来ない事を」
想い人の想いが自分へと向いていない事など知っていた。でも、其れでも背中を押す事に対する躊躇いは無い。
「私の好きになった人は其れが出来る人の筈だから」


『いつだって地面スレスレさ イカシてるじゃねぇか』

鶴屋さんの戦友

少女の震えは何時しか止まっていた。
「武者震い、って奴さ。怖くなんてない。怖がってなんていられない。そうっしょ?」
背中に守るべき親友が居る。其れだけで、何処まででも鬼になれるような気がしていた。
「死なないよ。そして誰も死なせない。其れが、あたしの覚悟だから」
自分を信じてこの場を任せてくれた彼らの期待に、自分を案じて共に残ってくれた少女の友情に応える為に。
「死ぬよりも生きる覚悟の方が辛いけど、でもあたしは其の向こうに笑顔が待ってるって信じてるっ」
斧を振り上げる。未だ、戦える。例え退場のベルが鳴ったって、退く気なんてさらさら無い。
「だから、私は何度でも立ち上がってみせるのっさ!」



『言ったろ 俺はしつこいんだ』

涼宮さんの戦友

少女は泣いていた。抑え切れない感情が彼女を支配している。
「なんで殺したの? ソイツが何かした? 殺すほど憎かった?」
体を暗黒が包み込む。少しづつ身体が純粋な殺意の塊へと変貌していく。けれど、抑えられない。理性が音を立てて崩れていく。
「魔王なんて言われていても、其れでもあたしの家族だったのに。なんであたしの信頼を裏切ったの?」
殺したい。殺したくない。大好きで、憎い。相反する想いを処理出来る程、少女は大人ではなかった。
「キョン……お願い。殺したくないの。……逃げて?」
其の言葉は偽り。本当に伝えたい言葉は何だった?
「ねぇ……助け……て……?」


『何でも来いよ これが俺のカード』

鍵たる少年の戦友

少年は理解していた。自分がするべき事と、自分が在りたい姿を。
「助けて、か。初めてじゃないか、お前にそんな風に甘えられたのは?」
少年は理解していた。この世界の規定事項と、託された思いの重さを。
「言っただろ。勇者だって。お前の、お前だけの勇者だって」
少年は理解していた。少女の想いの深さと、自分の罪深さを。
「此処までお膳立てされれば幾ら鈍い俺だって気付いてるさ。全てはあの時と同じ。この言葉で終わるんだろ」
少年は理解していた。明日へ繋がらない思いなんて無いという事と、明けない夜は無いというたった一つの真実を。
「Sleeping Beauty。さぁ、お前の為にたった一つの朝が来たぞ。もう夜はおしまいだ」



『ロイヤルストレートフラッシュ』

少年だった鍵の戦友

報われない想いなんて無い。
既定事項なんて言葉は後出しの予言でしかない。
ならば、未来は白紙だ。
其処に絵を描くのは、今を生きる人間の感情だと知れ。

『そうさ 俺こそが』

生に恐れを抱く必要は無い。生を過度に装飾する必要も無い。
何時を切り取っても、額もタイトルも無くたって。其れでも過去は最高に心を打つ名画なのだから。

『最強の切り札』

取って置きを使うなら、其れ相応の場面を用意しよう。報われない展開になんて絶対にさせない。させてやらない。
そうさ、ハッピーエンド。陳腐でも何でも。それが最高に決まってる。
バッドエンドなんて誰が望む? そんな捻くれた根性は犬にくれてやれば良い。

『スペードのエース』

さぁ、意思統一は十分かい?
アンタが最高に幸せな結末って奴を望むなら。
俺がそんな物語を用意しようじゃないか。俺がそんな物語にしてみせようじゃないか。
リアリストな神様の望み通りになんてさせやしない。俺は我が侭だからな。
理想主義? 上等だ。
この世界だって何だって全て、俺の望み通りにしてやるさ。


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