透、真剣勝負! 8 ルネはヒューヒューと息をしながらも楽しげに笑い、首をさすった。 万事休すとはこのことだ。俺は何とか立ち上がるまではできたけれど、身体中がガクガクして、距離を置こうとした途端に膝をついた。 体格差のある人間を押さえつけるには、ものすごい体力を使うのだ。 「も、無理……。ギブアップしていい?」 「ザケンナヨ」 「なんか、左腕が全然動かないんですけど……」 ルネは不機嫌そうな表情を浮かべ、垂れ下がったままの俺の左腕をつかむ。 「あだっ、いだだだ、痛いって」 乱暴に腕をまくられると、俺の腕は青紫色に腫れ上がっていた。 「……すごい色!」 思わず笑ってしまうが、その途端にみぞおちと脇腹に激痛が走る。 シャツをめくってみると、身体までドス黒く染まっていた。 それを見たルネは舌打ちをして、そっぽを向いた。どうやら、試合終了……にしてくれたようだ。 「……アンタさぁ、なんでこんなことすんの」 俺のぶしつけな問いに、ルネは睨み返した。 「意味なんてねぇ。ただ、強ぇヤツと戦いたいだけだ」 「なら、こんなとこでくだらない喧嘩なんかやってる暇があれば、さっさとプロデビューでもして、リングにでも上がれよ。もったいない」 「何がだよ」 「才能がだよっ! アンタの身体を見るだけで、強いってわかる。もちろん、努力してるのもわかってる。あのコンビネーションは見事だったし……」 ルネは俺を凝視した。 「……何を企んでやがる?」 「はぁ?」 「おべんちゃらなんて聞きたかねぇよ」 ルネが凄んだ。その距離で見るとルネの瞳は青く澄んで見えた。 そういえば、《シエル》って、フランス語で《空》だったか……。 「媚び売ってるワケじゃない。ただ、アンタが羨ましいだけだ。ああ、ムカツク」 [*prev][next#] [戻る] |