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幻滅デイリー
鈍感先生
 ニンゲンシッキャク 番外編。

 前川進も勿論、教育実習生だった。先生が、先生じゃなかった頃の話。



 前川は実際、女生徒に人気があった。顔は悪くないし、身長もそれなりだ。頭の回転だって良かったし、怒鳴ったりもしない。

「あの、前川先生、今、大丈夫……ですか?」
単語毎に区切りながら、漸く話し掛ける少女。
「どうしたのかな? 何か、質問かい?」
清掃を終えて教室に施錠をした前川は、彼女の目線に合わせる様に出席簿を持ったまま軽く屈む。
「えっと、あの、特に、質問は無くて……」
「ん?」
細身のスーツに袖を通している前川は、梅雨の蒸し暑さを物ともしていない様だった。
「ただ、待っていただけなんですけど、あの、ダメ、でしたか……?」
「いや、そんな事は無いよ。それより、部活とか平気?」
「わたし、帰宅部なので大丈夫です!」
顔を真っ赤にして、少女は目を泳がせていた。
「じゃあ、平気だね」
目だけで笑う前川。
「あの、前川先生……。さようならッ!」
「さようならー、気を付けて帰るんだよー」
パタパタと廊下を走っていく少女に、前川はただ手を振っていた。

 どうやら、前川は昔から鈍かった様である。

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