[携帯モード] [URL送信]

幻滅デイリー
鰻登りに鯉幟
「鰻が食いたい」
彼が言うものだから、出前を取ろうと電話の受話器を上げた。すると、横取りされる。
「奢るから、美味い鰻を食いに行こう」
彼は、気だるげに笑っていた。

 自家用車に乗り込み、約一時間。店長一人で切り盛りしている、小さな店だった。
「鰻重2つ」
ブイサインを作り、カウンター席で店長に注文する。店長は快く承ると、鰻を捌き始めた。
「鰻の自然発生説、って知ってるか」
一口お茶を飲んでから、首を横に振る。すると、彼は笑った。知らなくても、良い事らしい。
「鰻ってのは、生態がよく解っていないんだ。海や河を回游し、いくらかの距離ならば地上も這って移動する。つい最近まで、産卵場所さえ解らなかった」
「そうなの」
普段は休みの日になるとボケーッとしているくせに、蘊蓄やクイズを語らせたら止まらない男。それが、彼だった。
「お兄さん、鰻に詳しいんだね」
店長が話し掛けてくるなんて、怖いもの知らず。
「いや、鰻だけじゃねえよ」
言葉遣いにも負けない程の、Tシャツにスウェット姿というだらしない恰好。
「ところで、お兄さん。隣の美人は彼女かい?」
「いや、自然発生説」
ムカついたわたしは、彼の足を勢いよく踏みつけた。

[戻][進]

28/29ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!