幻滅デイリー 不眠症の悪魔 「わたしは怖いんです、悪魔は眠らないから」 青年は背凭れも肘掛けも無い簡素な円椅子に、背中を丸めて自らの膝の上で手を組んでいた。そして、そわそわと世話しなく指を動かしていた。 「しかし、それだけでは無いでしょう?」 「ど……、どういう事ですか?」 見えない相手に、青年は怯えていた。いや、正確には磨りガラスの向こうにいる相手に。 「あなたは、そんな事を言う為だけにわざわざこんな辺鄙な場所へ来たのですか?」 びくッ、と青年の肩が震えた。 「違いますよね──、悪魔が眠らないから怖いわけではありませんよね? あなたの中の、悪魔が目覚めてしまったからですよね。あなたが今、恐怖を感じている理由は──自らの中の悪魔を見てしまったからなのでしょう」 優美だが、確実に追い詰めていくガラス越しの声に怯える青年。ガタガタと身の震えを止められずに、歯も同時にガチガチと鳴らす。 「そして、あなたはそれが信じられなかった」 「止めろ! もう、良いから! 頼むから、もう言わないでくれッ!」 そして、肩で荒く呼吸をする青年にとどめが刺された。 「本当は、それを誰かに暴いて欲しかったのでしょう──? それが、あなたの願いだった。何とまあ馬鹿馬鹿しい、嗚呼退屈で怠い話。こんな話は、懺悔でも何でも無いよ。さっさと帰れ、夢遊病が」 そうガラス越しから聞こえると、教会の扉という扉が大きな音を立てて勝手に閉まった。 「他人に本当の自分を暴いて貰いたいだなんて、気が狂っているに違いないさ──あのガキは特にね」 [戻][進] |