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幻滅デイリー
彼女とタンゴを
「女は、人前で口笛を吹いちゃいけないんだってさ」
彼女は、今思うと黒猫の様な人だった。



 お世辞にも綺麗だとは言えない、黄ばんだ教室のカーテンが翻る。きっと、日に焼けてしまったのだろう。
「どうして?」
訊くと、彼女はニヤッと笑ってトトと近付いた。その素早さに対応しきれず、身を反らせる。
「アンタ、思ったより子供なんだね」
俺より三十センチ近く背の低い奴には、言われたくなかった。しかし、彼女はずっとニヤニヤしてこちらを見ている。
「一体、何なん」
「シッ」
口に出そうとした言葉を遮られ、長いカーテンの中に連れ込まれる。冬場なのに、何だかやけに暑かった。
「誰か来た」
「隠れなくたって、良いだろ」
「煩いわね、黙りなさいよ」
仕方なく静かにしていると、扉の開く音と共に担任の声が教室に響く。
「誰か、いるのか?」
いたたまれず、固く瞼を閉じて息を殺していた。彼女は馴れているのか、未だニヤニヤして俺を見ている。
「空耳だったか」
そして、溜め息と共に扉が閉まった。
「……残念だわ」
「何がだよ」
「不純異性交遊を見せ付けられなくて」
俺は日常生活から考えると、異常な程に近い距離に興奮していたのかもしれない。
「あの教師、わたしに援助交際を迫って来たのよね」
「ふうん」
いやらしい程の流し目、短いスカート丈から覗く脚、白い首筋。全く興味が無い振りをするが、彼女は俺の手を取った。
「女が人前で口笛を吹いたらいけないのは、キスをねだっている様に見えるからよ」
そう言って、彼女は目の前で口笛を吹き出した。

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あきゅろす。
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