[携帯モード] [URL送信]

幻滅デイリー
生活指導
 彼は自宅が面白く無いからと言って、いつも朝の六時には校門前に立っているらしい。身長に対して細い体躯と、長い黒髪はすぐに彼だと知らしめる。
「おはよう、佐々井」
「……はよ」
生活保護を受けているぼくとは違い、同じクラスの佐々井は学術機関に寄付を施す程の金持ちだ。しかし、そんな事を鼻にもかけない彼が好きだった。
「椎名は、朝練……なんだ」
「あ、そう、陸上部なんだ。大会に推薦されててさ、上位に食い込めたら高校の推薦も取れるかなって」
彼は気温の低さに、顔が赤くなっていた。当たり前か、ぼくより三十分も速くから立っているのだから。
「頑張ってんだ……」
「佐々井こそ、今回の試験結果凄いじゃん。お前こそ、頑張ってるよ」
用務員のオッサンが門を開けると、佐々井は無言で歩を進めた。
「俺は、頑張って無い。頑張っていたけど、もう止めた」
「それって、どういう事だよ」
慌てて追い掛けると、髪に隠れていた彼の左耳が露になった。ぽつぽつと赤く、爛れている。
「その、耳の痕……」
点が線で結ばれ、何を示しているかが解った。家で虐待でも受けているのだろう、だから自宅が面白く無いとか言うんだ。それに。
「あ、それ、ピアスホール」
「何だ……」
ある意味、予感が的中せずにほっとする。
「これさあ、リストカットより効くんだ。髪で隠せば見えないし、塞がりかけた穴に無理矢理ピアスの針を突っ込むと、何もかも忘れられる。一時的にだけどね。でも、最近は痛みに馴れちゃってどうしようかと思っているんだ……。あ、これは内緒だから」
佐々井は人差し指を、口元にそっと当てて苦笑した。

[戻][進]

24/29ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!