[携帯モード] [URL送信]

幻滅デイリー
老紳士の先生
 俺は今日、とある名誉と呼ばれた老紳士の屋敷に招かれていた。彼は何しろ、俺の恩師という厄介な人間である。

「わたしは、日本一。いや、世界一になった! わたしは達成したのさ。解るか、このジャンルにおいてわたしより上はいない!」
老紳士は胸を張り、自慢げに高価そうな装飾が施された杖をつく。
「そうですか、それはそれはおめでとう御座います」
俺は少々わざとらしかったか、と気になった。しかし、老紳士は自らの業績に酔いしれている様だった。嬉しそうに、ワインのコルクを開ける。
「懐かしいね、君とワインを開けるのは十年ぶりか」
「いいえ、先生。十三年と九ヶ月、二十一日ぶりです」
「ははは、君は相変わらず細かいねえ」
俺が細かいのでは無い、老紳士が昔から大ざっぱ過ぎるのだ。だから、俺は言ってやらねばならない。
「先生」
「どうした?」
「達成とは努力の死骸が生まれて、作られる物だと思うのです」
ガシャン、とガラス瓶の割れる音がした。

 ああ、毛皮の敷物が赤く染まっていく。

「……先生、申し訳ありませんでした……」

[戻][進]

15/31ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!