幻滅デイリー 老紳士の先生 俺は今日、とある名誉と呼ばれた老紳士の屋敷に招かれていた。彼は何しろ、俺の恩師という厄介な人間である。 「わたしは、日本一。いや、世界一になった! わたしは達成したのさ。解るか、このジャンルにおいてわたしより上はいない!」 老紳士は胸を張り、自慢げに高価そうな装飾が施された杖をつく。 「そうですか、それはそれはおめでとう御座います」 俺は少々わざとらしかったか、と気になった。しかし、老紳士は自らの業績に酔いしれている様だった。嬉しそうに、ワインのコルクを開ける。 「懐かしいね、君とワインを開けるのは十年ぶりか」 「いいえ、先生。十三年と九ヶ月、二十一日ぶりです」 「ははは、君は相変わらず細かいねえ」 俺が細かいのでは無い、老紳士が昔から大ざっぱ過ぎるのだ。だから、俺は言ってやらねばならない。 「先生」 「どうした?」 「達成とは努力の死骸が生まれて、作られる物だと思うのです」 ガシャン、とガラス瓶の割れる音がした。 ああ、毛皮の敷物が赤く染まっていく。 「……先生、申し訳ありませんでした……」 [戻][進] |