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幻滅デイリー
少女漫画症状
「だって、男の人ってバイオリンとかピアノとか弾いてくれるのよ!」
ピーピーと喚くから、何かと思えば。
「……はァ?」
「だーかーらー」
息を吸おうとした彼女の鼻を、素早く摘む。
「フガッ?!」
目を白黒させる彼女は、なかなか見物だった。俺は笑いが止まらず、壁を叩く。
「何すんのよ!」
「いやァ、面白いな」
「ちっとも、面白くなんかないわよバカ!」
どうやら、かなり怒り心頭らしい。凄い目で、こちらを睨んでいる。
「バイオリンはバイオリニスト、ピアノはピアニストが妥当だろう。俺は幸か不幸か、歯医者だ。子供がピーピー泣く、機械の不協和音しか奏でられない」
ははは、と笑ってから彼女の頭を軽く叩いた。
「安易に叩かないで、って言ってるでしょ!」
「それ以上、馬鹿になったら困るしな」
「タバコとお酒は、百歩譲って許すわ。だけど、趣味はギャンブル全般なんて絶対許せない!」
タバコとアルコールとギャンブルで、彼女を困らせた事は無いつもりだ。しかし、一層目を怒らせている。怖くは無いが、状況の打開が必要だ。俺は何にでも軽口を叩いてしまう分、こういった時のフォローが面倒臭く感じる事がままある。けれど、馬鹿はスルーされてしまった様だ。
「何で、ギャンブルは嫌なの?」
優しく訊いても、じろりと睨まれてしまう。
「だって、デート先が競馬場とか競輪場とか競艇場とかパチンコとか嫌なんだもん!」
「あー……」
なるほど、と思う。チラッと彼女を見ると、いつの間にか泣いていた。俺と目が合うと、人差し指の腹で涙を拭う。だが、初めのうちや当たると一緒に大喜びしていたじゃないかと思った。
「何よ」
ずっと彼女を見ていると、低い声で牽制される。もう、言い訳なんて要らないらしい。そう、目で訴えている様だった。
「俺は、お前に賭けていたんだけど。お前は、……違った?」



 一時的に、言い合いは治まった。しかし、彼女の呟きは聞き逃せなかった。
「で、いくら賭けてるのよ?」
勢いで、言ってしまっただけなんだけどなァ。

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