幻滅デイリー 陰間廓艶噺 陰間廓の不動様、と言ったら知らぬ者はいないという。それもそうだ、彼を広めたのは俺だ。 ※ 腰の物を脇に置き、膳の前に座る。 「不動」 胡座をかいて、がつがつと飯をかっ喰らう様を誰が知るだろうか。不動はいつも、母屋では繊細のかけらすら見せない。 「今の俺は、ただの仙太郎だ」 「仙太郎」 「何だ」 ぺっ、と魚の骨を吐き捨てる。その姿が、妙に劣情を誘った。しかし、今日来た身請けの話を進める事にした。勿論、自らの欲を断ち切る為に。 「身請けのはな」 顔を顰めて、がたんと音を立てる仙太郎。 「俺は、身請けなどされぬわ」 「しかし、話は聞け。俺が、上から叱りを受ける事になる。それに」 「……誰だ、その酔狂な輩共は」 諦めた様に、空の茶碗へ箸を渡す。全く、行儀が悪いのは生れつきか。 「貿易商の若旦那、藩抱えの道場の師範、卸問屋の跡継ぎだそうだ」 「ふん、苦労のくの字も知らん餓鬼か」 鼻で笑う仙太郎の着物の襟首や裾から見える、日に当たらぬ白い肌に無意識ながら喉を鳴らす。その視線に気付いてか、仙太郎は妖しく笑った。 「今日も、御苦労だったな。来い、抱かせてやるぞ」 俺は蝶が華へと誘われる様に、不動の体を掻き抱いていた。 [進] |