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幻滅デイリー
年中、喪中につき
 改めて、0.3ミリの細さを誇るというペンを購入した。勿論、喪中葉書を書く為である。

 母が購入した、最悪の紙質を誇る葉書に無心で書き込んでいく。悲しみより、何かが足りないという事に気付かされる。誰かが死のうと、ぼくは悲しみに囚われない様に出来ているらしい。便利であり、そして可哀相な思考である。泣かないのでは無く、泣けない。笑わないのでは無く、笑えない。楽しくなさそうではなく、楽しくなれないのだ。

 やがて書き終わり、葉書を輪ゴムで纏めて玄関に置く。ペンを収納し、一息つく。

 感情が欠落している、ただそれだけだ。何もかも、大袈裟にしてみりゃいい。冷静に、もう一人の俺がぼくを見ているだけの話。

 愛しいあの娘が死んだら、泣けるだろうか。大事と思っているかもしれない、家族が死んだら泣けるだろうか。いつだったか、父はぼくに「心で泣け」と言った。けど、その心を奪ったのは一体誰だったか。勿論、大事と思っているかもしれない家族なんて言えるはずも無い。言おうか、『あなたの教育は、間違っていたのさ』ともう一度。ぼくをこんなふうに育てたのは、紛れも無くあなただよ。

 ぼくの心は、年中喪中が続いています。

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