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幻滅デイリー
救い、巣食われ
「これ、お前の?」
「あ、サンキュ。探してたんだよ、どこにあったコレ?」
学生証を受け取り、ホッとする表情を見せる女性的な顔立ち。しかし、彼は歴とした男である。
「昇降口の自販機前だってさ。女子が、見付けたって言ってたよ美貴ちゃん」
途端に、サッと顔が青ざめる。
「見たのか……」
「うん」
悪びれた様子は、一切見せない。

 いつかは、バレると思っていた。男のくせに、美貴なんて。幼い頃は良かった、名前なんか関係無かったから。だから、自己紹介だって苗字しか言わなかったのに。コンプレックス中の、コンプレックスを知られてしまうなんて。
「美貴、って良い名前だよ。俺、好きだもん。お前の名前だし!」
学生証を引ったくられ、手を取られて。
「お前、恥ずかしげも無くそういう事を……」
ストレート過ぎる程の言葉に、どうすれば良いのか解らなくなる。
「だって、本当にそう思ったから!」
中学生の頃は、これでもかという程にからかわれた。だから、高校はなるべく知り合いのいないところに行こうと決めたのに。
「お前の名前に、ぴったりだもんな!」
「あ、有難う……」

 俺は救われながら、彼に巣食われている事に気付いた。僅かな言葉で。

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あきゅろす。
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