幻滅デイリー 囚人、參佰捌號と 「ねえ、解る。明日、わたし死ぬのよ」 隣の独房から、女の声が聞こえた。新たに増やされた冷たい部屋は、よく物音を通す。 「そうか」 短く答える。 「絞首刑よ」 「そうか」 ひんやりとした壁に囲まれて、BGMは明日処刑予定の女の声。 「あなた、どこの人」 「帝都」 「まあ、偶然」 反逆罪の俺も、多分絞首刑になる事だろう。親近感などは湧かないが、流す事も出来ず律儀に反応してしまう。僅かな明かりを頼りに、本を読みながら。 「わたし、こう見えて……あら見えないわね。まあ、こう聞いて戦犯者なの」 うふふ、と笑っている。とうとう、気が触れたかと思った。 「戦争は、人を狂わせるわ」 「しかし、戦争はその狂った人間が始める」 女は、死を恐れていない様だった。 「畏怖せよ、弱き民草。そして、立ち上がるが良い。我等が強き事を」 いきなり、演説を始める女。いい加減にしてくれないか、一々煩い。 「わたし共は、天皇の子である。守れ、そして崇めよ」 「いい加減にしないか。お前は明日、絞首刑になる女だ。それで良いだろう、他に何かあるのか。名前でも、訊いて欲しいのか」 此方まで、洗脳されてしまいそうだった。 「わたしに、名前等無いわ」 [戻][進] |