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幻滅デイリー
優しく、慰めなさい
「泣かれても、困る」
困ったって、何も対処しないくせにと思う。だけど、悔しかった。歯を食い縛ると、勝手に涙が出る。わたしは、負けず嫌いなのに。泣いたら、慰めてよって言っているみたいで。そして、この人はわたしがそう言う瞬間を、何だかんだ言ってずっと心の底で楽しそうに待っているから。

「泣くなよ」
ワイシャツのボタンを掛けながら、白々しく。思う、この人の態度っていつも胡散臭いし。信用出来ないし、迂濶に気だって許せないもの。本当に嫌だ、この人。自分を正当化するし、人の話は聞かないし、何より嘘を吐き慣れているんだもの。最低最悪最上級の、人でなし。

「泣くと、ますます不細工になるぞ。おーい」
声は上げない。絶対に、漏らして堪るかという最後のプライド。相手の悪いところを、百個言えるかというコンビネーションテストの一種があった様な気がする。でも、わたしは言える。相性が悪くたって、いくらでも言える。わたしの中を、きっとこの人が占めているんだと思ったら余計に辛くなった。

「俺、仕事だからな」
ドアを開け部屋を出てドアを閉め、鍵を開けドアを開け玄関を出てドアを閉め鍵を閉める。開けて閉めての繰り返し。わたしみたい、と自嘲。

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あきゅろす。
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