幻滅デイリー 繰り返して、残像 彼は、わたしの手を握った。力強い男の子の手だったけど、わたしを気遣ってか強くは握られ無い。 「行こう」 それは、柔らかな笑顔。夏の爽やかさでは無く、秋の憂いも感じない、冬の寂しさとはまた違う。暖かくて、多分彼にしか出来ない顔。 「どこへ?」 「どこか、遠く。ずっとずっと、遠く。人がいない様な、遠くまで」 表情とは違う、切なくなる様な声色。何故か、悲しくなる様な。 「君がいなくなってしまうなら、一緒にいなくなってしまいたいだけ」 「わたしは、いなくならないよ」 「いなくなるよ。どこにも、いなくなる。探しても、見付からないところまで。君は、足が速いから」 息が苦しい、と思った。彼は、生き苦しいんだと思った。わたしは、彼に何もしてあげられないんだと思った。そしたら、ますます悲しくなった。 「じゃあさ、ずっとこの手を握ってて。絶対、離しちゃ駄目よ。お願い」 「離さない、離せない、離したくない」 涙の混じった様な、声が響いた。 わたしは、ずっと泣いていた。どうせなら、わたしの手が壊れるくらいに強く強く握れば良いのに。 [戻][進] |