幻滅デイリー わたしの生き字引君 「あ、ごめんね、いきなり電話しちゃって」 電話越しの彼の声は、かなり上擦っていた。もしや、お風呂だったかなんて考えてしまう。慌てさせてしまったなら、悪い事をしてしまった。 「どうした?」 「あのね、訊きたい事があって」 「何? 宿題? 俺、英語は役に立たねーよ」 「うん、それは知ってるから。今更、って感じ」 すると、力の無い笑い声が聞こえた。うーん、悪い事したかな。 「で? 結局、何?」 「そうそう、諺を訊きたいの。『○○の千声、鶴の一声』の、○○に入る言葉を教えて欲しいの」 「は? そんなの、国語のプリントにあったっけか? っていうか、辞典使えば良いだろうが」 「面倒だから、速く言ってよ!」 すると、間髪を入れずに返ってくる。 「雀」 「だって、○は二つよ」 「でも、雀」 「亀、じゃなくて?」 「それは、『鶴は千年、亀は万年』と間違えているだけだろ。もしくは、『鶴亀算』とか」 「う……」 言葉に詰まってしまう。 「図星か」 電話越しの溜め息は、普段と変わらないものだった。幸せを、沢山逃せば良いのにと思ったのは内緒。 ※出題 火曜放送『タモリのジャポニカロゴス』より(実話) [戻][進] |