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幻滅デイリー
戦争、記憶違い
「ただいま」
髪も髭も伸びきった日焼け顔を見て、その体に飛び付いた。
「お父ちゃん」
抱き付いた父の体からは火薬や血の臭い、泥や草の臭いが確りと染み付いていた。嫌な臭い、死の臭いだった。
「あなた……」
母は父を見て、ただ涙していた。「御国の為に、天皇陛下の為に」なんて言って。本当は行って欲しくないし、一緒にいて欲しかったに違いないのに。
「大きくなったな」
父は、わたしを抱き上げて笑った。しかし、帰ってきてからの父は常に悲しそうだった。

 言葉も通じぬ異人を殺し、その異人にも親兄弟がいると死んで解るらしい。だが、わたしは自分の為に他人を殺す父を異質に感じた。父が戦争死ねば、わたしや母は当然悲しむだろう。しかし、死とはそんなに簡単だっただろうか。いや、簡単だったかもしれない。わたしの祖父が死んだ時も、そうだった。死ねば、それはただの肉塊に過ぎないのだ。死、とはそういうものだ。

 父は、誰の為に何の為に帰ってきてくれたのだろうか。勿論、帰ってきた事は嬉しい。しかし、わたしには父が全く解らない。折角帰ってきて、寝込み亡くなった父が解らないのだ。

 世の中に、疑問する。

(祖父の日記より、一部抜粋)

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あきゅろす。
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