幻滅デイリー 無性に、ジェラって 「抱き締めて良いか?」 なんて、久し振りに訊くから思わず頷いてしまった。だって、そんな苦しそうな声を出すなんて。全然、顔に似合わないんだもの。 「……ん」 締め上げられて、圧迫されて息が詰まる。首に彼の鼻先が触れて、ドキリとする。彼からは、微かにミントの香り。熱いくらいの体に、夏を感じてしまう。こんな事で、季節感を得るなんて。 「暑……ッう」 それより熱い息が、じんわりと首を伝う。わたしの方が、彼の何倍も何倍も暑いのに。 「暑いなら……、離せば……良いじゃない……」 体は暑いと思っているのに、心は正反対。心は、いつでも凍える様に寒いのかもしれない。 「あ、れ……?」 熱中症で倒れそう、だからこんな幻覚を見るのかしら? 彼の背に、一筋の長い黒髪。わたしは、ショートカットなのに。するりと抜いて、彼の目の前に見せ付けてやる。片手は、彼の項に軽く爪を立てながら。 「これ……、何かしら」 「……え?」 いつも、頼ってくれないからこそ嫉妬しちゃう。 「俺なんかに……、嫉妬してくれるんだ……?」 首筋から、汗が流れる。暑い、本当に暑い。蝉の鳴く声も、解らなくなってきている。 「誰なのよ……、この髪の持ち主は……」 暑い。 [戻][進] |