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幻滅デイリー
わたしの、人拐いさん
「あなたは、だあれ」
暗がりに月一つ、後は点々星が見え。開いた障子の向こう側、月の逆光で顔も見えぬ。
「君を、拐いに来た」
ただ、声は凛と。

 少女というのは何時だって、白馬に乗った王子様を待っている。輝く冠に腰の西洋刀、南瓜パンツに白タイツ。ただ、此処は大和国。その様な恰好、あってたまるかと斬られるが落ちだろう。

「どこへ、いくの」
年端も行かぬ少女の背を掻き抱く様に、男は軽々と浮かせる。少女の脳裏には、幼い頃読み聞かせられた『竹取物語』があった。
「もしかして、月の国かしら。あなたは、月の国の従者でしょう」
「君は姫だが、月の姫では無い。君はこれからずっと、俺だけの姫でいれば良い」
豪華絢爛な夜具や、少女の着物は主を無くした。
「はい、わたしはあなただけの姫でいましょう」
少女は解らずに、ただ幼い顔を綻ばせていた。

 少女と男は人里離れた寂しい山の中腹に、ひっそりと暮らし続けた。男はたまに狩りや商売に出かけ、少女は何時しか大人になって男の子供を生んだ。

 豪族が慰みに使おうと拐い育ていた少女を、男は拐った。

「で、生まれた子供こそ次に桃に詰められて流される桃太郎さ」
「長いだぼらね」

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あきゅろす。
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