幻滅デイリー 心中岬で逢いましょう 「わたしと、心中してくれないか」 文学者は然も朝食のメニューを告げるかの様に、静かに言った。 聞けば、男というものはいつまでも光源氏だという。 「おや、光源氏は男を口説きましたっけか」 動揺が漏れない様、コーヒーを口に含む。 「女と見紛う男なら、口説いたかもしれんよ」 「ふふ。それ、結構気にしているんですけどね」 ずい、と彼は気にもせずぼくに近付く。 「わたしは、大抵の事はしてきたよ。浮気や不倫の男女関係は勿論、ここじゃあ言えない犯罪紛いだってした。だけどね、まだ心中はした事も無ければ計った事も無くて。情けないだろう、わたしの名前が泣く」 「だから、ぼくに心中を持ち掛けたんですか」 糞文学者め、と内心悪態を吐きながら顔を柔らかく綻ばせて見せる。 「君は、わたしを裏切らないからね。心中するには、君以外に考えられない」 「おや、まぁ」 悪い気は、しないけれども。彼も、光源氏とそう大差無いだろう。例え、ぼくが女で無くとも気にしないかもしれない。 「それに、君はその辺りの女よりもずっと高潔だよ。百合の花にも勝る凛々しさに、わたしは惚れた」 「まぁ、それでぼくを口説いたつもりですか?」 心中予定日は、明日。 [戻][進] |