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平穏最後の日(完結)
10



いつの間に起きたのか、しかし出て行く前に顔色の良い遼介を見ることが出来て嬉しかった。

「遼、具合はどうだ?」
「大丈夫、俺助かったんだ」
「うちの園川が見つけたんだよ、運良かったな」
「久遠さん!有難う御座います」

会話した感じも全く問題ない、思ったより元気そうで二人は安心する。

「じゃあ、ちょっと俺は用があるから行くが戻ってくるまで大人しくしてろよ」

「俺も行く」

改めて立ち上がった恭介に遼介がそう投げかけるが恭介は苦い顔をしたままだ。

「あの二人のとこ行くんだろ、俺も行くよ。俺が一番分かってるんだ」
「だが行ったっておもしろいことは一つもねえ、怪我も縫ったばかりだから」
「こんなの平気だよ。恭兄、お願い」

懇願する遼介の頭に温かいものが載る。上を向けば久遠が厳しい顔で頭を撫でていた。
温かいのに冷たい、そんな心境だ。


「遼介、お前が見る必要ねぇんだぞ」

久遠は遼介のためを思って言ってくれている、痛い程に伝わってくる。それが歯痒い。

「うん、でも行かせてほしい」
「どうしてもか」
「うん」
「おい、本山ァ。モニター越しならどうだ」

「……仕方ねえ、行くぞ」

ここで時間をかけるわけにもいかず遼介の言い分も分かる恭介は、渋々頷き遼介を支えながら立ち上がらせて廊下にいる部下に指示を出した。
すぐに車の用意が出来て三人は例の二人組がいる場所へと向かう。

数十分で着いた先は、紫堂会の家とは随分と離れた場所にある打ちっぱなしのシンプルなデザインの建物だった。

ここも紫堂会の持ち物だろうかときょろきょろと辺りを見回しながら恭介と久遠に挟まれて中へ入る。
廊下には数人の人間がいて恭介たちに気が付き頭を下げていくので、通り過ぎる際に遼介だけぺこりと会釈した。

突き当たりまで歩くと小さな部屋に通される。机と椅子とパソコンがあるだけの質素な部屋だ。

「遼、そこに座って待ってろ。すぐ戻ってくる」

「分かった」

”モニター越しで”と言われていたのがこれだろう。

やはり直接対面させてはくれないらしい。それでもここまで連れて来てもらえたのは久遠のおかげだと思う。
先に出た恭介に続いて廊下へ出ようとする久遠の服の端を軽く引っ張った。

「何だ?」
「あの、ありがとう」
「ここに来たいって駄々こねたのはどこのどいつだ。ガキは素直に甘えておけ」
「ん……あと、気を付けて」
「捕まえた奴らのことか?心配すんな」
「心配というか、とにかく女の人の方に気を付けて」
「あ?女?よく分からねぇけど注意はしとく」

その言葉にほっとしてやっと引っ張っていた服を離して手を振る。

どうせ拘束されているだろうから気を付けるも何もない、これはただの嫉妬だ。
女という立場だけで自分たちのことを”気持ち悪い”と言ってのけることが出来る田代への。

久遠が会えばきっといろいろ言ってくるだろう。

遼介はただ久遠を信じてモニターを見つめるしかなかった。






「こ、こんなことして警察呼ぶわよ!」
「愛ちゃん、止めろよ……っ」
「うっさいわよ木偶の坊!あんたがあたしを守ってくれないから捕まっちゃったんでしょー」

ぶ厚い壁の中に閉じ込められている田代がぎゃんぎゃん騒ぐ。
見張りとして宛がわれた二人の男はそれを苛々した様子で眺めながら言い合う。

「あの女早く黙らせたいぜ、坊狙ったんだろ?」

「いや、気持ちは分かるけどもうすぐ来るはずだから待ってろよ」



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