平穏最後の日(完結)
11
言われた方はがしがしと頭を掻く。
「つーか女ァ、警察呼ぶってお前らだって大層なことしてんじゃねぇか。ああ?」
急に凄まれ「うぅ」と言葉に詰まるが、おしゃべりが趣味かと思う程しゃべる田代はすぐに反論した。
「な、何よあたしは悪くないしっ何もしてないもん」
「そうだそうだ」
「したのはこの男だしっ」
「そうだそう……あ、愛ちゃん……!」
「うーわ、最悪な女だな。五月蠅いし性格も歪んでるぞ」
一人で喚き全ての罪を仲間であるはずの青木に擦り付けようとする様は見ていて不快以外の何ものでもない。
状況もしっかり分かっていなさそうな人間と今からやり合わなければならない恭介たちに男は同情した。
調子に乗り出した田代は、捕まっているという状況も忘れてしまったのかどんどんたたみかけてくる。
「んなわけないでしょ!あたしのこと可愛いって言ってくれる人いるんだからっそれにあんたたち何者か知らないけどねー、青木はヤクザと繋がってんのよ!すごいでしょ」
「ぶっ」
「”ヤクザ”ね、そりゃすげーわ」
ふふんと自信満々に叫ぶ田代に男たちが笑う、青木は内容を聞いて顔を青くさせるだけだ。
青木はいきがってオーバーに周りに言い立てているだけでもちろん繋がりなどどこにもない。
さらに今対峙している相手こそが本物の極道。
田代は気が付いていないし、青木も今の段階では雰囲気的にもしかしたらという憶測でしかない。そんな二人を相手にして見張りの男たちは失笑する。
そんな言い合いの中、ついに重い扉が鈍い音を立てて開いた。
「お疲れ様です!」
「ああ、こいつらか」
「はい!捕えたまままだ何もしていません」
「分かった。あとは俺らがやるからお前たちは外で待機してろ」
「失礼します!」
腰を折り曲げて挨拶をし外へ出て行く二人と入れ違いに恭介と久遠が入ると、途端に田代の顔が明るくなる。
「く、久遠さあんっもしかしてあたしのこと助けに来てくれたんですか?嬉しいぃ〜!!」
「あ?」
それに反応したのは久遠ではなく恭介だ。険しい顔がさらに暗さを増す。
「久遠……てめえが原因か?」
捕まえた女が久遠の名を発した上にこの態度、つまりは遼介が被害にあったのは久遠が絡んでいるということだと理解する。
しかし久遠は田代を一瞥しただけで興味なさげに言った。
「知らねぇなこんな女。見たことねぇ」
「そ、そんなぁっ前に話したことあるじゃないですかぁ!」
上目に涙を溜めながら田代が言えば、久遠はさらに表情を失くす。
「気色悪ぃ」
「……だとよ。まあ、お前にはあとでたっぷり話を聞いてやる、今はこいつらの処遇だが」
「決まってんだろ。……処分だ」
モニター越しに見ていた遼介ががたんと勢いよく立ち上がった。
「や、やだ。何言ってんの久遠さん!意味分かんないんだけど」
「愛ちゃん……!こいつ、この人たち本物だよ……」
「あんたヤクザと繋がってんでしょ、何とかしなさいよっ」
「何とかって」
「ほお、繋がりねえ」
恭介の不気味な笑顔に青木は震えあがる。
がくがくと不規則に動いたまま半開きの口が止まってくれない。
「じゃあ、当然俺らのことは知ってんだよな?紫堂会をよ」
「し、紫堂……ッ」
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