小説
仔狐育成日記2
「焼け焦げよ!」

掛け声とともに頭にばふっと何かが乗せられた。
目の前に垂れた細い布地を掴む。
「元就〜〜〜〜」
怒気を感じ取り逃げようとした仔狐をがしっと捕まえて引き寄せる。
「離せっ!」
「ハタキを人にぶつけるなって何度言ったらわかるんだ!」
最近の元就のお気に入りはこのハタキ。
これで掃除でもしてくれるのなら良いのに、振り回して人にぶつけてくるのだ。
「ハタキではない、さいはいだ!」
「いや、ハタキだろ」
「ええい離さぬか、無礼者!」
ガキのくせして口だけは達者で、愚劣だの無礼者だの下衆だの古風な悪態をついてくる。
しかもそれがやたらと似合うものから何とも言えない。
小奇麗な容貌に見下すような言葉…これが大きくなったらと考えるだけで恐ろしい。


「もとちか、痛い!」
考え事をしていたらいつの間にか手に力が入っていたらしい。元就が掴まれた腕を揺すって半べそかいている。
悪い悪いと手を離してやると、ちょっと赤くなっていた。
腕を擦りながら潤んだ目で見上げてくる。
「焼け焦げよっ!」
次の瞬間 顔面に思い切りハタキをぶつけられた。


「待ちやがれ元就!」
「お、追いかけてくるでないっ!」
必死に逃げる元就を追いかけながら、潤んだ瞳に心臓が跳ねたのは気のせいだと自分に言い聞かせた。





(H19.12.15〜H20.1.12)

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