小説
仔狐育成日記3
「もとちか、餅は?」


最近 元就は何かと餅を催促してくる。
正月に雑煮を食わせてから知ったことだが、餅が好物らしい。
それにしても一日に何個食うんだ。
朝から餅、昼も餅、おやつは甘いもの、夕飯も餅。
餅尽くしの元就に付き合ったのでこっちは餅にうんざりしている。


「今日は餅はなし」
テーブルに置いたうどんに元就の顔が見る見る強張っていく。
うどんも嫌ってはいなかったはずなんだが。
「何故餅がない」
「たまには別のもんでも良いだろ」
元就の苦情を無視してうどんをすすり始めるた。
ちらりと様子を伺えば、おお睨んでる、睨んでる。
「我は餅が良い!」
正月からこっちずっと餅を食わせてやってただろうが。
言い返せば意味のない応酬が続きそうな予感がして、心の中に留めるだけにしておいたが。
「もとちかっ」
知らない知らない。大人しくうどんを食え。


しばらく吼える元就を放っておいたら静かになった。
諦めたかと思い顔を上げると耳と尻尾をしょんぼりさせてうな垂れている。
「もと…ちか」
涙声になっていることに気づいてやばいと思った。
餅がないことだけでなく、あまりに無視を続けてしまったこともあり泣きそうになっている。
ふるふると小さな身体が震えている。
やばい、泣く!
「…わかった!」
「もとちか?」
「餅だな、餅」
くしゃっと小さな頭を撫でて台所へ向かう。
嬉しそうにぱたぱたと尻尾を揺らしているのを見てほっとした。


甘いよな、俺も。



(H20.1.12〜H20.2.19)

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あきゅろす。
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