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柔らかな束縛
from.Meguru

歳の離れた兄の結婚式を、ボクはきっと忘れない。


「ねぇ、ボクもいつか結婚するのかな」
「そうだなぁ結婚は素敵なことだけど…」


隣でワインを傾ける兄は、少しだけ真面目な顔になってこう答えた。


「どんな形でも、廻自身が一緒にいるだけで幸せだって人を見付ければ、それでいいんだ」


ボクは言った。みんなはそれでいいのかと。無意識の言葉だった。
それを笑い飛ばして、兄はボクの頭を撫でた。


「馬鹿だな、お前自身の幸せを祝うのが一番幸せなんだよ、みんな。兄さんもな」


何だか腑に落ちないと言うか、実感が湧かなかった。
ただこうしてボクを大切に思ってくれる人達が、今この場のように笑顔になってくれるのなら、いつか自分も結婚をするのだろうと思った。


それだけで良かったのに、ボクは我が儘だ。
彼女が傍にいない幸せなんて、もう考えられないのだから。




「もう、こんなとこに飛ばして」
「ん…ありがと、絹華」


二年程前までやれどのアイドルが格好いいやら何部の先輩が素敵やら、そんなことで騒ぐ友人達をぼんやり眺めていたボクが、今こうして必死になってバレンタインチョコレートを作っている。


「廻!ゴムべらそっちに向けないの!」
「あぁぁああぁ」


頬に付いたチョコレートを舐めとって貰うというベタなシチュエーションにどきりとして、持っていたゴムべらをボールの外にやってしまう。
有り得ないミス。卓上に広がったチョコレートに二人して溜め息を吐き、そして思わず笑い合う。

おかしな話だ。だけど確かにボクは、充実感に満ち満ちているのだ。


大牟田グループの娘として生まれた以上、ボクはそれ相応の知識と教養を与えられて育った。
しかしよく出来た兄に恵まれ、そしてその兄は素敵な奥さんを迎え、ボクには会社を継ぐ必要がなかった。
溺愛されながらも自由な将来を約束された、何とも幸せな自分の立場。

これで充分だった。これ以上何も望むつもりがなかった。
バレーを続けて、心身共に成長して、いつか兄と両親を手伝ってあげられればいい。


「変なところ不器用よね、廻」


でもボクは出逢って、そして見つけてしまった。最高の幸せというものを。

呆れたように、だけど笑って、絹華はボクの頬を撫でてくれた。


「味は自信あります」
「3個分は無駄にしちゃったわよ」


意地悪な唇に、掬ったチョコレートを指ごと食らわせる。
音を立てて離れたそれがとてもとても甘いキスをくれると、二人して頬を緩めてしまう。

お兄ちゃん、きっとボクは今、あの日の貴方達のように、心から幸せに笑っている筈。




ハッピーバレンタインデー、大事な大事なお姫様へ。








※他人に対してひたむきになれる自分がくすぐったくも嫌いじゃない。

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あきゅろす。
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