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闇の中から
第六話
―第六話・初めて見た怒り―
  
キーンコーンカーンコーン

 ようやく一日の終わりが近付いて来た。
あとは担任である華凛が教室に来て一日を締めくくるSHR(ショートホームルーム)をしてくれるのを待つばかりだ。

「っはぁ〜、疲れた」

 大志は今日、通常の学園生活では味わう事の出来ない程の疲労を感じる事になっていた。
クラスメート達の質問責めのせいである。休み時間になる度に皆して押し寄せてくる。
席の近い奴は授業中にまでも話し掛けてきた。
そして、今は少し落ち着いたのか大志の周りにはやっと近付く事が出来たいつものメンバー、堅思と颯士しかいない。
いや、正確に言えば一日中離れようとしなかったニリスもいる。

「おそらく学校では詳しい話は聞けそうに無いな。
という訳で今日、大志の家に行ってもいいか?」

 そう言ったのは堅思である。
ニリスに関して、ミーハーなどではなく真剣にニリスの情報を欲している人物の中で、今最も何も知らないのは彼である。

「ああ、その時にこいつについて説明するわ」

「あ、俺も行くからなっ。
俺だってニリスちゃんについて色々知りたいんだからな」

 そう言う颯士の真理は、未だに疑っている大志とニリスの愛の巣をこの目で確かめてやろうというものだった。
しかし、大志からは思い掛けない言葉が出た。

「颯士にはまた明日説明するから今日は我慢してくれ」

「な、何でだよっ。
俺だけ仲間外れかよっ」

「悪いな。
今日はお茶菓子を切らしてるんだ。
明日には用意しとくからさ」

 もちろんそんな事は嘘である。
だが、颯士はそれを知ってか知らずか

「しょーがねーなぁ。美味いもの期待してるぞ」

「ああ」

堅思には時々颯士という人物を計り兼ねる時がある。
颯士は果たして大志の言葉を聞いて、全て、とはいかずとも、理解して了承しているのか、それとも何も考えず大志の言ったことをうの鵜呑みにしてるのか。    

と、その時、大志が何かに反応した。
何事かと大志の視線の先の教室前方の扉の向こうに目をやると、既にそこには何もなかった。
何があったのかと堅思と颯士の二人は大志に目を向けた。
ずっと大志を見ていたニリスも言うまでもなく大志に目を向けている。
すると突然大志は立ち上がり、教室後方の扉の方へ走り出し、そのまま外へぬけて行った。

「ちょっとぉっ、大志どこ行くの!?」

ニリスが叫び声を上げて大志を追いかけようとした時颯士が、「あっ」と言った。
ニリスがその声に反応して颯士の方を向いた時、廊下から大志の声が聞こえてきた。

「響子先輩、こんにちは!」

 ニリスが初めて聞いた、大志の弾むような声。

「響子?…誰?」

 ニリスが堅思と颯士を睨み付ける。
そしてその問いには堅思が答える。

「彼女の名前は白石 響子(しらいし きょうこ)。
二年生にして我が校の生徒会副会長を務めている。
それは異例の事で、今までに三年生以外が会長、副会長の座に就いた事は一度としてない。
初めは会長席に就く事も話しに上がったが、形だけでも最上級生がトップに立つべきと副会長になった。
つまり、事実上彼女が生徒会で最も権力を持っている。
彼女の家は資産家で、彼女自身も並み外れた能力を持っている。
この学校の人間に、我が校最高の人間は、と問われれば、確実に全ての人間が彼女の名を挙げるだろうな。
ま、そんなとこかな」

 堅思が淡々と話すのをニリスは興味無さそうに聞いている。
そして、一区切り付いた様なのでニリスは改めて自らの疑問を口にする。

「で、そのお偉い響子様と大志はどういう関係なの?」

 廊下で楽しげに話している大志と響子を横目に見ながら、不機嫌そうに言う。

「そこからは俺が話そう!」

 俺もニリスちゃんと喋るんだとばかりに颯士が割り込んできた。

「簡単に言えば一目惚れってやつだな!
生徒会のメンバーとして響子さんが立っているのを大志が発見して一目惚れ。
大志は即座に生徒会に立候補したって訳だ。
もともとパッと見真面目な奴だから、難なく生徒会に入り込みやがった。
ま、あいつの気持ちもわからんではないがな。
何せあの容姿、あのスタイル、あの頭脳、あの家柄、あのオーラ、あの性格、非の打ち所が無いとはまさにあのこと。
流石の堅思も響子さんには敵わねーよな!」

「ああ、そうだな」

 堅思は当然の事を受け入れているかのように笑顔でいた。

「だが響子さんはいくらなんでも高嶺の花だろ。
大志でも多分無理だろうな。
響子さんが好きになる人ってどんな奴なんだろうなぁ。
意外と俺だったりして?あはは、いやぁ〜、困るなぁ〜」

 颯士の頭の中では,響子が自分に告白している状況でも浮かんでいるらしい。
それを堅思は、相変わらずの笑顔で見守っている。
だが、ニリスはというと、既にこの場にはいない。



「今日は何についての会議なんですか?」 

「今日はね――」

 響子がそこまで言った時、突然ニリスが飛び出して来た。

「響子!!」

 大志は身体をビクッとさせた。
そして感じた。
ヤバイと。
ニリスは何を仕出かすか分からない。

「お、おいっ、何やってんだよ!?お前は教室に戻っとけ!」

 大志は一刻も早く、ニリスをこの場から離したいと考えるが、ニリスはそんな事気にも止めず、自らの思うままに行動した。

「あなたに一つ忠告しておきたい事があるの」

 それに対して響子は特に慌てた様子も見せず、

「あら、あなた初めて見るわ?大志くんのお友達?」

「私はニリス・ネイル。今日この学校に転入してきたの」

「ああ、そういえば職員室で先生方が騒がしくしていたわね。
今日いきなり転入したいと言って来た女の子が、しかも学園長を何かしらの方法で脅して、無理矢理一年二組になった娘がいるって。
あなただったの、思っていたよりずっと可愛い娘ね」

(な、何!?こいつそんな事してたのか…)

 二人は、大志をまるっきり無視で話を続ける。

「それはどうもありがとう。
だけどこれだけは言っておくわ」

「あら、何かしら?」

 ニリスは大きく息を吸い、一気に吐き出すように言った。

「大志は私のモノ(食糧)よ!あなたには譲らないわ!」

「何ィィ〜!?」 

 隣にいた大志が一番驚いた。
そして、廊下を歩いていた者、教室にいたもの、全てが一瞬動きを止めこちらを見た。
少しだけ驚きの表情を見せた響子はすぐにいつもの笑顔に戻り、

「それは残念。
大志君かわいいからちょっと狙ってたんだけどな。
だけどこんなに可愛い娘が相手じゃ勝ち目ないわね。
私は潔く身を引く事にするわ。それじゃあ、そろそろ先生が終礼に来ちゃうから教室に戻るわね。
大志君、可愛い彼女がいて羨ましいわ。
大事にしてあげてね。
あ、でも生徒会にはちゃんと出席してね?」

 響子は手を振りながら去っていってしまった。
その場には大志とニリスの二人が取り残された。
ニリスは妙に満足げな顔をしている。

「お前はなんて事を言ってくれたんだ。
しかも、よりにもよって響子先輩に…」

 大志がニリスを睨みつけながら言うと、ニリスは逆に大志を睨み返した。

「な、なんだよ…!」

 少なからずニリスの睨みに驚いた大志の顔を、ニリスは更にジッと眺めてから、

「べっつにぃぃぃ、大志ったら相手がちょっと美人だからってデレデレしちゃってさぁ。
だらしないっていうか、情けないっていうか…。
……バッカじゃないの!?」

 ニリスの怒りは頂点に達し、先以上の大声で怒鳴った。

 大志としては最後に強烈な一発を喰らわされた。
何か言い返してやろうと思うのだが、何を言えば良いのか分からない。
いつもなら言い合いで負ける事など無いのだが、ニリス相手だとどうも調子が狂う。
結局何も言ってやれない内に、ニリスは教室に戻って行ってしまった。
すると、正面から華凛がやって来たので、大志も教室に戻る事にした。

 思えば今、初めてニリスの本気で怒る顔を見た。
腹が立ったし、ちょっと、恐かった。
だけど今胸にある感情は、どうやらそれだけではないようだった。

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あきゅろす。
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