闇の中から 第五話 ―第五話・初登校― 1年2組の教室。 ここは大志、堅思、颯士のいる教室だ。 いつもと変わらず騒がしい。 「なぁ?ニリスちゃんこのクラスに来るかなぁ?」 颯士が大志の机に顎を乗せながら聞いてくる。 イスに座り、背もたれに身を預けている大志の隣の席に座っている堅思は、颯士が何を言っているのかわからない。 「大志、ニリスって誰だ?聞いた事ないが…」 幼い頃から仲の良かった自分に、大志が一度も告げた事のなかった名を他人から聞くと思わなかった堅思は少し驚いている。 しかもその者がもうすぐこの場に現れるかもしれないと言うのだ。 「お前には後でちゃんと説明するよ。 まぁ簡単に言うと居候だ」 「なぁ!来るかなぁ!」 颯士が何故かキレ気味になる。 「たぶん無理だろ。 1組、2組、3組は37人。 4組から7組は36人。 ウチのクラスに転入生が入る事はないだろう」 颯士は諦めきれないといった表情だ。 その時担任の教師がベルの音と共に扉を開けて登場した。 このクラスの担任は女教師でかなり美人だ。 見た目は大人っぽく、まさに大人の女性といった感じである。 この学校の男子生徒の人気を二分する教師の内の一人だ。 「ちょっと早いがHRを始めるぞ」 まだ扉を開いたばかりで教壇にも立っていない担任の天崎 華凜(あまさき かりん)が言った。 朝礼のHRと終礼のHRにそれぞれ10分ずつ時間が設けられている。 そして今、華凜はHR開始のベルが鳴った時に現れたのだからHRを始めるには決して早くない。 しかしいつも始業ベルの鳴る直前に来て、必要事項のみを手早く伝え華凜が教室を出て行った頃にちょうどベルがなる。 ある意味時間にきっちりしているのだが、HR開始時間に開始される事は滅多にないので天崎にしたらちょっと早いのだ。 しかし早く来たのにはきちんと訳がある。 「では早速だが転入生だ。 自己紹介してくれ」 華凜の後ろにくっついてきたのはニリスだ。 ニリスが口を開く。 「えっと、名前はニリス・ネイルです。 ニックネームはまだ決めてません。 それから、イギリス出身の日本人です。 あ、でも両親は一応イギリスの人です。 でも私は日本語以外話せません。 それからえ〜っと…、今は、大志のいへひふんへはふ(大志の家に住んでます)」 いつの間にか1番後ろの席に座っていた筈の大志がニリスの口を手で押さえていた。 クラスがざわつく。 華凜ですらも驚いた顔をしている。 「お、俺達従兄妹なんだよな!?」 大志が慌てて取り繕う。 「え…?あ、はいそうなんです」 ニリスがとりあえず大志に合わせる。 大志の顔は引きつった笑顔だ。 突然大志が素早い動きでクラスメイトとは反対、つまり黒板の方に向き、 ニリスも一緒に向けさせて顔をよせ、小さな声を怒らせながら言う。 「いいか、お前が吸血鬼だって事と、俺の家に住んでるって事は絶対に秘密だ!わかったな!」 「うん、大志と私…、二人だけの秘密だねっ」 ニリスが嬉しそうに言う。 「ホントにわかってんのかよ…」 大志が溜め息混じりに言葉を漏らしながら、クラスメイト達の方に目をやると何故か痛い程の視線が突き刺さってくる。 「…え?」 大志は思わず一歩後ずさる。 直後、クラス全体から様々な言葉が飛んできた。 「テメーっ、従兄妹だからってニリスちゃんにベタベタすんな!」 「ちゃんと俺を紹介しろーっ!」 「ニリスちゃんを独占すんじゃねーぞ〜」 「そんなに乱暴にしたらニリスちゃんがかわいそうよ!」 「ニリスちゃんカワイイぞーッ!」 「おにいさんと呼ばせてくれーっ」 大志は驚きのあまりどうする事も出来ず、パニックを起こして立ち尽くしている。 ニリスはそんな大志やクラスの様子を見て、相変わらず楽しそうに笑っている。 パンパンッ! すると、教室内に手を叩く音が響いた。 「はーい、静かにするーっ!」 華凜だ。 クラスがある程度静まってきた時、落ち着きを取り戻した大志がある事に気付いた。 「くくくっ」 堅思が含み笑いをしているのである。 少しムッとして大志が訪ねる。 「なんだよ?」 堅思は笑いながらも素直に答える。 「いやぁ、もし大志がそっちじゃなくてこっち側にいたら、両親がイギリス人だって言ってるのにどうやったら純粋な日本人と従兄妹になれんだよ。 とかって言いそうだからさぁ」 つまり、普段どちらかというとクールな雰囲気を出している大志が、 いつもならあっさりツッコミを入れそうな初歩的なミスをするのが可笑しかったのだ。 だがクラスはそれどころではない。堅思の言葉によって大志の嘘が発覚したのだ。 「どういうことだー!」 「どういう関係なんだー!」 「わざわざ嘘をついてたなんてあやしぃー」 クラスが一気に騒がしくなった。 「あ、いや…それは……。 堅思ーっ!」 「あっはっは、ごめんごめん」 堅思のせいで嘘がバレてしまったのに、堅思は笑っている。 大志にとっては笑い事ではすまないのに。 「静かにしろっ!」 クラスが大騒ぎの中、それでも全ての生徒に聞こえる程の声が一瞬で駆け抜けていった。 全ての生徒が動きを止めた。 全く華凜の統率力は大したものである。 「HRは終わりだ。 さっさと一限目の用意しておけよ」 華凜はそれだけを言って教室を出ていった。 「はぁ〜」 大志はこれから起こる波乱の学園生活を思い、大きな溜め息をついた。 始業のベルが鳴った。 [前へ][次へ] [戻る] |