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闇の中から
第四話
─第四話・初めての朝─

「バカ大志〜っ!どうして起こしてくれなかったんだよぉ!」

一階のリビング。
大志が一人で朝食を食べていると、ニリスが叫び声を上げながらかけ下りてきた。

「あ、おはよう」

大志は普通に口をモグモグさせながら、食パンを持った手で挨拶をする。

「おお、おはよう大志。
今朝も良い天気だな」

ニリスはすがすがしい笑顔で挨拶を返す。
しかしすぐに流されてしまった事に気付く。

「じゃなくて!何故私を起こさなかったと聞いているんだ!」

大志の目が少し冷ややかになる。

「あのなぁ、俺のイメージの為に言っておくが俺は散々起こした!
何度も何度も起こした!
既に俺の部屋のクローゼットにお前の制服が掛けてある事と、
いきなり学校に来ると言い出してた事に一通り驚いた後にも起こした!」

「あ、ちゃんと昨日言ってた通り朝起きてから驚いてたんだ。
そういうところ几帳面なんだね。
大志絶対血液型A型だ」

「やかましいっ!吸血鬼に血液診断されたくねぇよ!俺は十回以上お前を起こした。
それでも起きなかったのは誰だ!」

「う゛う…。
そ、そんな事言ったってヴァンパイアが朝苦手なのは仕方ないだろぉ!?」

「だったらそれを俺のせいにするな!」

「……」

急にニリスが黙った。
いや、よく聞くと僅かに嗚咽が漏れている。

「う…う゛ぅぅぅ。大志の…、大志のべらぼうバカァ〜!!」

ニリスはパジャマの余った部分を翻しながら二階へ駆け上って行った。

「べ…べら?…意味わかんねぇよ。
…はぁ、アイツといると調子狂う。
怒鳴りたかった訳でも、あんな顔させたかったのでもないのにな」

大志は残りのパンを無気力にかじっていた。


朝食を食べ終えた大志は食器を洗いながら、頭では別の事を考えていた。

(やっぱ謝った方がいいよな。
制服までちゃんと用意してあるって事は結構楽しみにしてたんだろうし、
俺と喧嘩しただけで学校に行けなくなるのは可哀想だよな。
よしっ、謝ろう!
今から準備すれば時間もギリギリ間に合うしな)

洗い終わった物をさっさと食器乾燥機に入れ、大志は二階の自室に向かった。

コンコン
扉をノックする。
自分の部屋ではあるが中にいるのは一応女性、これは礼儀だ。
しかし返事がない。

「入るぞ」

「ちょ、ちょっと待っ…」

中から慌てた声が聞こえたが扉は既に開かれてしまった。
そこでは、大志と同じ学校の制服のスカートを履いたところだったニリスが、
膨れっ面でこちらを見ていた。

「ちょっと!女の子の着替え中に部屋に入ってくるなんてどういうつもり?!」

大志の頭は小さなパニックを起こしていてどうする事も出来ずにつっ立っている。
それがニリスには逆に、大志が落ち着いている様に見えた。

(け、結構今の恥ずかしかったんだけど、大志はそうでもないみたい。
も、もしかして女の人の身体見るのとか慣れてるのか?!)

ニリスは少し気に入らない。

「で、何の用?」

大志がやっと我に帰る。

「あ、いや…その、謝ろうと思って。
さっきの。
怒鳴ったりしてごめん。
それで、お前さえよければ一緒に学校行かねーかなって思って」

ニリスは内心では嬉しかった。
さっきまでの怒りはすっかり吹っ飛んでいた。
思わず顔の筋肉が緩みそうになる。
それを必死にこらえながらこう言った。

「わ、わかればいいの。
仕方ないから一緒に…行く」

一緒に行ってあげると言いたかったが、あんまり調子に乗って、
大志に、行ってあげるとか思ってるんだったら別にいいよ。
と言われるのが恐かったので、最後は素直になってしまった。
しかし、例え行ってあげると言っていても、おそらく大志は笑って、うん、行こう。
と言っていただろう。
大志とはそういう人間なのだ。



「ねぇ大志ぃ〜、お腹空いたぁ〜」

通学途中、ニリスが泣きそうな声で大志にすがりついている。
結局二人は一緒に登校する事になったのだが、
ニリスは怒って大志の部屋にこもっていた分時間がなくなり、朝ご飯にありつけなかったのだ。

「はいはい、学校に着いたら購買で何か買ってやるから少し我慢しろ」

「血ぃ〜、大志の血も欲しい〜」

「“も”かよ。
ダメだ。
俺はまだ血が足りてないんだからな?朝起きるのもしんどかったし」

「むい〜。…けち」

「お前のせいでしなくていい苦労をしてるんだ。
食費も二倍に増えてるしな。
ったく、吸血鬼のくせに人並みにメシ食いやがって」

「ぶーっ!!」

その時、二人の後方から大志には聞き慣れた少年の声が聞こえてきた。

「おーっい!た〜いし〜っ!」

大志は溜め息を吐いてから声のした方へ振り返る。
数十メートル離れた所から走って来る彼は久礼 颯士(くれ そうし)。
大志、堅思といつも一緒に行動している三人組の最後の一人。
この三人は見事な程共通点の少ない三人である。
堅思は全てを完璧にこなし、大志は全てを難なくこなし、颯士はほぼ全て難ありだ。
唯一の共通点は、名前の最後が[し]ということくらいだがその[し]すらも漢字はバラバラなのだ。
どうでもいいけど…。

「お、おい!てめぇーの横にいるそのかわいい子はだれだ!」

颯士が、一歩後ずさりながらニリスを指さして叫ぶ。

「転入生だよ。
今日からウチの学校に来るの。
クラスはわかんねぇけど学年は同じだ」

ニリスが眩しい位の笑顔で大志に続く。

「初めまして、ニリス・ネイルです。
大志がいつもお世話になってます。
で、これから私もお世話になります。
ヨロシクね」

「なんでお前が俺の身内みたいな事言ってんだよ。
世話されてんのはお前だけだ」

「え〜?いいじゃん別に。
身内みたいなもんじゃん?」

大志とニリスのやりとりを見ながら、颯士は色々な妄想を繰り広げていた。



 ニリスと大志の関係は婚約者だ。
しかも相思相愛である。
二人は四六時中ベタベタしており、家には二人だけ。
ニリスが食事の支度をしながら、座っている大志と楽しそうに笑って話している。
二人が食事を終えると一緒に風呂へと向かう。
背中を流し合ったりと、そこでも仲睦まじい。
そして共に同じベットへ潜り込み、当然その後二人は…。

「あ〜っ!!」

そこで颯士は妄想をストップさせた。
それ以上の展開は颯士にとって許せないものである。

「な、なんだよ突然?!」

それまで颯士そっちのけでニリスと痴話喧嘩(颯士にはそう見えていた)をしていた大志は、
突然張り上げられた大声に驚き声の主である颯士に不審気な目を向ける。
ニリスは颯士を見ながら目を丸くしている。

「あ、いや、なんでもないんだ…ハハハッ…」

颯士は、そんな事は有り得ないと自分に言い聞かせた。

「それより学校行こうぜ。
急がねーと遅刻するだろ?なっ?ハハッ」

大志は颯士に不審気な目を向けたまま歩き出した。
その隣で、ニリスは二人の事など気にもせず、
だんだん近付いてきた初めて通う事になった学校という物に胸を踊らせていた。

「と、ところでお前、ニリスちゃんとはどこまでいったんだ?」

「…はぁ?俺達はそんなんじゃねーよ」

「お、俺達〜?クソーッ!俺の知らない内に既に二人で一つかよ〜っ?!」

「…くどいぞ」

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