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   ロッティーとカラスのおばさん

「どうだ、きれいだろう?」
一本の大きな木の上に、
きれいなビーズやキラキラ光る色ガラスが、
クリスマスツリーのオーナメントように飾られています。

「まあ! とってもステキだわ」
「女の子はこんなのが好きだと思ってなぁー」
ロッティーの住んでいる、ムーンライトの森には、
こんなにきれいに飾られた木はありません。
キラキラ光る色ガラスが、ロッティーは欲しくなりました。

「あのきれいな色ガラスが欲しいなぁ……」
思わずつぶやいたロッティーの声を、チャムは聴きのがしません。
「たくさんあるんだから、一つくらい持っていってもバレないさ」
「ダメ、ダメ!」
ロッティーは断りました。
「誰も見てないじゃないか」
「あたしは人のものを盗ったりしないわ!」
そういって、その場を立ち去ろうとするロッティー。
すると、チャムは木によじ登って色ガラスを盗みました。

「やるよ! これ」
ロッティーに色ガラスのカケラを渡そうとします。
「ダメ! いらない」
「盗ったのは、俺さまだから持っていけよ」
「盗ったものなんかいらない!」
ふたりは言い争って、もみ合いになりました。

そこへ、空から大きな黒いツバサが飛んできて、
ふたりを目がけて襲ってきたのです。

「痛たたぁー」
「きゃあー、やめてぇー」
ロッティーもチャムもクチバシでつつかれて、
逃げ回って、散々な目に合いました。

――黒いツバサの正体は一羽のカラスでした。

「おまえら、あたいの大事な色ガラスを盗もうとしたね!」
キッと怒った顔でカラスがにらんでいます。

ムーンウインドの森に住む、カラスのおばさんは、
キラキラ光るきれいなものを集めるのが大好き。
遠くの町から、せっせっと運んできては、
巣のある大きな木の枝に飾っているのです。

「俺じゃあない! 盗んだのはこいつだぁー」
そういって、チャムはロッティーを指さして、
そのまま逃げて行きました。
「そ、そんなぁー」
「おまえが犯人かい?」
カラスのおばさんは、ものすごく怒って、
カァーカァーと大声で鳴きました。
またしてもドロボウにされたロッティーは泣きそうです。

「ち、違います! お返しします。わたしが盗ったんじゃありません」
ロッティーは必死でした。
そんな様子を、カラスのおばさんはジーと見ていて……。
「おまえは犯人ではないようだ」
「ええ、違います」
「うん。おまえは正直者の目をしているからね」
カラスのおばさんがニッコリ笑いました。

「どうせ、チャムがやったことだろう。この森で一番のウソつきだよ」
「じゃあ、この森の王様っていうのはウソなんですか?」
「あのチャムがかい?」
カァーカァーとカラスのおばさんが笑いました。
「この森には王様なんかいないさ」
「そうですか」
「チャムは、赤ちゃんの時にお母さんが死んでしまって……」
「まあ……」
「ひとりぼっちで寂しいから、ウソをつくのかもしれない」
カラスのおばさんがしんみりした顔で言った。
お母さんがいなくて、ひとりぼっちのチャムのことが、
かわいそうだとロッティーは思いました。

「おまえは正直だから、うたがうことを知らない」
「はい……」
「だから、だまされるんだよ」
「……そうです」
すっかりロッティーはしょげてしまいました。
「ウソつきよりも、正直者の方が心はきれいだよ」
「えっ?」
「キラキラ光るきれいなものが好き! だからおまえの心も好きだよ」 
黒いツバサで、ロッティーをやさしく包みました。

「これは、おまえにあげるよ」
「えっ! ホントにもらってもいいんですか?」
「あたいはウソをつかないさ」
「ありがとう! カラスのおばさん」
太陽にあてると、
透明な光をとおして、色ガラスがキラキラ輝いています。
ちょっぴり、うれしくなりました。

ロッティーはカラスのおばさんにもらった、
キラキラ光る色ガラスをお土産にすることができました。
分かってくれた、カラスのおばさんに「さよなら」をして、
今度こそ、真っすぐお母さんの元へ帰ろうと思っています。
なにがあっても……もう人の話に耳をかさない!
ロッティーはそう決心しました。

ムーンウインドの森の出口に近づくと、
なにやら大声で言い争う声がきこえてきます。
けれども、ロッティーはきこえないふりをして、
目をつぶって、足早に通り過ぎようとしました。



   ムーンウインドの森の住民たち

「ロッティー! たすけて!」

その声に、思わず目を開けてしまったロッティー。
見れば、チャムがイノシシに首根っこを押さえられて、
周りにはハリネズミとイタチもいます。

「たすけてよぉー」
チャムはイノシシにつかまれて、ジタバタしていました。
ロッティーは知らん顔で逃げようと思いましたが……
みんなに取り囲まれて、チャムが泣いていました。

「このウソつきチャムめ! ぶん殴ってやる!」
イノシシがこわい声で言いました。
「おまえのウソのせいでひどい目にあったぞ! ハリでつき刺してやる」
ハリネズミもカンカンに怒っています。
「ウソつきには、おいらの臭いガスをおみまいするぜ」
イタチがおしりを向けました。
どうやら、チャムのウソのせいで、みんな迷惑したようです。

……ものすごく怒っていて、チャムはひどい目に合わされそう。

「お願いです。チャムを許してやってください」
思わず……ロッティーは口走ってしまいました。
知らん顔で逃げようと思っていたのに……
チャム一匹に、おおぜいは卑怯だと思ったからです。

「ん? おまえは誰だ」
イノシシが聞きました。
「ムーンライトの森からきたロッティーです」
「よそ者はすっこんでいろっ!」
ハリネズミが怒鳴った。
「さては、おまえもこのウソつきの仲間だな?」
イタチがうたがわしい目で見ました。

「俺はウソついてないのに……こいつらがイジメるんだ」
チャムが言い訳しましたが、すぐにウソだと気づきます。
「なんだとぉー? このウソつきがっ!」
イノシシがチャムの頭をポカッと殴りました。
「みなさん、チャムはウソつきで、わたしもだまされました」
「おまえもこのウソつきにだまされたのか?」
「じゃあ俺たちの仲間だ! 一緒にこいつをぶん殴ろうぜ」
ハリネズミとイタチが言いました。

「いいえ、わたしはチャムを殴ったりしません!」
「そうか! だったらどっかへいけよ」
ムッとした顔でイノシシが言います。
「そして、チャムを殴らせたりしません!」
「なんだとぉー?」
全員が口をそろえて聞き返しました。

「いいこと、チャム。みんなにウソをついたこと、ちゃんと謝りなさい」
「……分かった」
ロッティーに言われ、チャムは素直にうなずきました。

「みんな、ウソついてゴメンなさい」
チャムはみんなに謝りました。

「チャム、そして二度とウソをつかないって誓いなさい」
さらに、ロッティーに言われ、コクンとうなずくと……。

「二度とウソはつきません」

「ちゃんと謝って、ウソつかないこと誓ったから、もう許してやって」
ロッティーがチャムの手を引っ張っていこうとすると、
「待てよ!」
「俺たちは謝ってもらっても気がすまない」
「そうだ、そうだ!」
三匹は口々に不満を言いますが、
そんなことを言われても……
どうしたものか困ってしまいます。

「じゃあ、どうすればチャムを許してくれるの?」
「そうだなぁー」
イノシシはしばらく考えてから、仲間と相談を始めました。
三匹はヒソヒソしゃべっていましたが……
どうやら決まったようです。



   ロッティーの大事なもの

「チャムを許して欲しいなら、おまえが持っている物の中で……」
イノシシはそう言うと、ひと呼吸してから――。
「一番大事な物を俺たちによこせ!」
「ええー!」
ロッティーは困りました。
今持っている物の中で、一番大事な物と言えば
カラスのおばさんがくれた、
キラキラ光る色ガラスしかありません。
すごく気にいっているので、やりたくない。

「どうだ、一番大事な物をわたすのはイヤだろう?」
「こんなウソつきは放っとけばいいんだ」
「俺たちにチャムを殴らせろっ!」
三匹は口々にまくし立てました。
ウソつきチャムのために、
カラスのおばさんがくれた色ガラスをわたすのは、
ホントに惜しいのです。

「どうせ、口だけだろう? こんな奴、たすける価値ないぞ」
そういうとイノシシはチャムの首を絞めあげました。
「痛たたぁー」
チャムが苦しそうにもがいています。
「やめてください! これをあげます」
キラキラ光る色ガラスを、ロッティーは差し出しました。

「おおー!」
三匹はおどろきました。まさかロッティーがチャムのために
一番大事な物を差し出すとは思っていなかったから、
「きれいなガラスだな、ホントに俺たちにくれるのか?」
「ええ、だからチャムは許してあげて」
「わかった! ウソつきチャムはおまえに返す」
イノシシはチャムを放しました。
やっと、三匹は森の中へ帰っていってくれたのです。

「ロッティーありがとう」
しんみょうな顔でチャムが礼を言ったが……
「もう、あなたの顔なんかと見たくない!」
ロッティーは怒っています。
大事な色ガラスを三匹にわたして、くやしかったのです。

ムーンライトの森に向かって、はや足で歩くロッティーの後から
なにか言いた気にチャムがついてきます。
「ロッティー怒ってる?」
「あなたのせいで、カラスのおばさんがくれた色ガラスをなくしたのよ」
「ゴメンよ……」
「もう! あたしについてこないで!」
きつい口調で、チャムに向かってそういうと、
ロッティーは泣きながら、荒れ地へ走っていきました。

――その後ろ姿を、しょんぼりとチャムが見送っていた。


   荒れ地を越えて

「おーい! ロッティー」

荒れ地を歩いていると、誰かの呼び声が聴こえてきました。
ふり向くとチャムが息を切らせながら追いかけてきます。
腹が立っていたので、わざと気がつかないふりで、
どんどん早足でロッティーは歩いていきます。

「ま、待ってくれよぉー」
泣きそうな声で、チャムが呼びかけてきますが……。
「なぁに?」
おもいっきり、ふくれっ面でふり向きました。
「お願いだから……待ってくれ」
「しらない!」
「ロッティーに、渡したい物があるんだ」

「これを……」
そう言うと、チャムは手に持った物を見せました。
それは小さな花の苗でした。
かれんな、パンジーみたいな黄色いお花が咲いています。

「これは?」
「月風草(つきかぜそう)って言って、俺の森にしか咲いてないんだ」
「とっても可愛いお花ね」
「うん、香りもいいんだ」
「これをわたしに……」
「ムーンライトの森に持って帰って植えてくれよ」
「ありがと……でも……」
ロッティーは少し考えました。
またチャムにだまされるんじゃないかと……。

「まさか、盗んできたんじゃないでしょうね?」
「ちがうよ! 崖をよじ登って俺が摘んできたんだ」
そういえば、チャムの体には土と草がついています。
よく見れば、手にすり傷もありました。
たぶん、崖をよじ登るときについたのでしょう。

ウソつきだと思って、チャムをうたがって悪かったと思いました。

「俺のために一番大事な物を差し出してくれて、ありがとう」
「さっきのことね」
「すごく、うれしかった!」
「そう」
「俺のためにそこまでやってくれたのは、ロッティーが初めて……」
「だって放って置けなかったもの」
「――友だち。ロッティーは俺の友だち!」
そう叫んで、手をにぎったら、おもわずロッティーも。
「うん、チャムは友だち!」
二匹は手を取り合って、「わははっ」と大声で笑った。

「ロッティー、君のことは忘れない」
チャムは手をふって、ムーンウインドの森へ帰ろうとしました。
「チャム待って! ムーンウインドの森に友だちはいるの?」
その質問に地面を見つめて、チャムは首を横に振った。
きっと友だちのいないチャムは寂しくて……。
ウソつきに戻ってしまいそうで、ロッティーは心配です。

「ねぇ、わたしと一緒にムーンライトの森へくる?」
その言葉にパッとチャムの顔が明るくなった。
「お、俺がいってもいいのか?」
「ええ、だけど約束してほしいことがあるの」

チャムは、三つの約束をさせられました。


   ひとつ、ウソをつかない。
   ふたつ、人の物を盗まない。
   みっつ、みんなと仲よくする。


「分かった! 約束するよ」
「ホント?」
「うん。ウソつかない、盗まない、みんなと仲よくする」
「ちゃんと守れる?」
「絶対に守る!」
「じゃあ、ずっと友だちだよ」
「友だちだぁー!」
二匹は手をつないで、荒れ地を歩いていきました。

荒れ地の黒い岩の上に、だれかが座っています。
それは一匹の大きなブタですが……。

「こんにちは。しじんさん」
「やあ! 仲間がふえたね」
「俺、チャム」
「大事な友だちです」
「ほほぉー『友だち』は、しじんの好きな言葉だ!」
いきなり、しじんはマンドリンをかき鳴らして、うたいだしました。


   友だちって なぁに〜♪ 友だちって なぁに〜♪
 
   君が悲しくて 泣いていると
   どうしたの? 声をかける
   なにも言わずに 泣いていたら
   ポケットから ハンカチを差し出して
   ふたりで一緒に 涙を拭くんだぁ〜♪

   それが 友だち〜♪ それが 友だち〜♪

   君がうれしくて 笑っていたら
   いつの間にか そばにいる奴
   背中をバシッと叩いて この野郎!
   はしゃいで ふざけて 大笑い
   ふたり一緒なら 喜びも二倍さぁ〜♪

   友だちって いいなぁ〜♪ 友だちって いいなぁ〜♪


ブタしじんは気持ち良さそうに、ヘンテコリンな歌を
うたっています。

その歌声に見送られるように、ロッティーとチャムは、
ムーンライトの森へ帰っていきました。



   ロッティー、お母さんの待つ森へ

ムーンライトの森の入口に、だれかが立っています。
それはロッティーの帰りが遅いので心配して、
森の入口で、待っていたお母さんの姿でした。
遠くから、その姿が見えたので
大声で呼びながら、ロッティーがかけ寄っていきます。

「お母さーん」
「ロッティー」
お母さんもロッティーの姿を見て、大きく手を振っています。

「ただいま」
「おかえり」
元気よく笑顔でロッティーが挨拶しました。
お母さんは、出かける前よりもロッティーが
少し頼もしくなって、帰ってきたように見えたのです。

ロッティーの後ろから、見知らぬ、くまの男の子が、
ぴょこんと顔をのぞかせています。

「あ、紹介するわ。『知らない森』からきた。チャムよ」
「俺、チャム。よろしく」
「おや! 友だちも連れてきたのかい?」
「チャムは大事な友だちなのよ!」
「ようこそ、チャム。ムーンライトの森の仲間たちと仲よくしてね」
「はい!」
お母さんに笑顔で歓迎されて、チャムもうれしいそうです。

「ロッティー旅はどうだった?」
「うん、いろいろあったけど楽しかったよ」
それからロッティーは『知らない森』であったことを、
お母さんに次々と話しました。
にんじん畑のことやカラスのおばさんにもらった色ガラスなど、
辛い目にもあったけど、チャムと友だちになれて良かったことも。

「ねぇ、お母さん『心の目』ってどうしたら見られるの?」
「心の目?」
「うん、荒れ地で会ったブタのしじんさんが教えてくれたの、
大事なことは『心の目』で見なさいと……」
「そうかい。それはたぶん……こういうことだと思う」
お母さんは少し考えてから、ゆっくりと答えました。
「見た目にごまかされないで、心の中でよく考えて決めなさいってことよ」
「心の中でよく考えることが『心の目』だったのね!」
やっと、ロッティーにもブタしじんの言っていた意味が、
少し分かりました。



「ホォーホォーホォー」
森のミミズクのおじいさんがムーンライトの森中に、
ロッティーが旅から帰ったことを知らせています。

森の仲間たちが集まってきて、ロッティーの無事を喜びました。
一緒にムーンウインドの森からきたチャムのことも、
みんなで大歓迎してくれました。

ムーンライトの森、ここなら仲間がいるので、
チャムは寂しくなんかありません。
もうウソなんかつかなくてもいいんです。

――チャムは、やっと自分の居場所を見つけました。

ムーンウインドの森からもってきた。
月風草をロッティーとチャムは丘の上に植えました。
大事に、大事に……ふたりはその苗を育てたので、
月風草はムーンライトの森に根付いて、
たくさんの花が咲くようになったのです。

やがて丘の上は月風草の咲く、黄色い花畑に――。

まんまる満月の夜。
ムーンライトの丘の上、月の光が照らしだせば、
さやさやと月風も吹いて、花びらを揺らして、
黄色い花たちが放つ、甘く優しい香りに、
ムーンライトの森が包まれてゆきます。

いつしか、ムーンライトの森では、
黄色い花のことを
月光草(げっこうそう)と呼ぶようになりました。

ムーンライトの森とムーンウインドの森、
ふたつの森はひとつの苗でつながったのです。
そのかけ橋になったのは、ロッティーの冒険でした。

ウソつきじゃなくなったチャムはロッティーと、
ずっと、ずーっと仲よくムーンライトの森で暮らしました。




☆.。.:*・゚ おしまい ☆.。.:*・゚


                         
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