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くまの子ロッティー 

ムーンライトの森に、ロッティーという
おてんばなくまの女の子が住んでいました。

ある日、クスノキのてっぺんに登って見えた。
『知らない森』へ、あこがれて、

ロッティーはひとり旅をします。

途中、騙されたり、怒られたり、泣いたり……と。
散々な目に合って『人生経験』をする、ロッティーですが
無事にムーンライトの森に帰って来れるでしょうか?


  読んであげるなら 5才から
  じぶんで読むなら 小学校中級向き
  そして、ロマンを求める大人のために


(表紙は無料フリー素材からお借りしています)

       
          ※ 童話「くまの子ロッティー」を我が最愛の娘に捧ぐ。


   初稿 趣味人倶楽部・創作広場 2011年8月頃 文字数 12,116字
   カクヨム投稿 2017年5月22日 文字数 12,282字






   くまの子ロッティー

まんまる満月の夜。
ムーンライトの森に、くまの赤ちゃんが生まれました。
名前はロッティー、とっても元気な女の子です。

「ホォーホォーホォー」
森のミミズクのおじいさんが、
大きな声で鳴いて、ムーンライトの森中に、
ロッティーの誕生を伝えました。

その夜は、さやさやと月風も吹いて、
本当に気持ちのよい、ステキな夜でした。
お月さまもロッティーを祝福しているみたいに――。



   おてんばロッティー

すくすく育ったロッティーは、
ムーンライトの森中で、
一番おてんばな女の子になりました。

川遊び、キノコとり、森の探検など
毎日、森の中をかけまわって遊んでいます。

いろんな遊びの中でも、ロッティーは木登りが大好き。
ムーンライトの森で一番高い木のクスノキに登るのが
とくにお気に入りです。

ある日、クスノキのてっぺんに登って、
遠くをながめていると、ムーライトの森をぬけて、
荒れ地をこえると、こんもりと木が茂った、
別の森があることに気がつきました。

「ねぇ、お母さん。向こうの森はなんて名前なの?」
ロッティーはお母さんにたずねました。
「さぁ、知らない。昔から『知らない森』って呼んでいるけどね」
「お母さんはあの森に行ったことがある?」
「いいえ、行ったことはないよ」
ロッティーのお母さんも、そのまたお母さんもだれも、
あの『知らない森』に行ったことがなかったのです。

どんなところだろう?
クスノキのてっぺんから見える、
あの『 知らない森 』が気になって、気になって……。
ロッティーは仕方がありません。

いつか『 知らない森 』に行ってみたいなぁー。
おてんばロッティーは、そんなことを考えていました。

ある日、お母さんに思いきって言いました。
「わたし『知らない森』に行ってみたい」
すると、お母さんはおどろいて。
「ダメ、ダメ! あの森には、だれも行ったことがない」
「だから、わたしが行ってくるわ」
ロッティーはそう答えました。

それからロッティーは毎日、毎日……。
どうしても『知らない森』に行ってみたいと、
お母さんにお願いしました。

ついに、根負けしたお母さんは、
ロッティーが『知らない森』に行くことを、
仕方なく許してくれましたが、

かわりに、三つの約束をさせられました。


   ひとつ、ウソをつかない。
   ふたつ、欲ばらない。
   みっつ、友だちを大事にする。


「はい。三つの約束は守ります!」
ロッティーはお母さんと約束をして、
ついに『知らない森』に行くことになったのです。

お母さんは、とても心配だったけれど、
『可愛い子には旅をさせろ』
ということわざがあるので、
行かせてみようと思ったのです。

だけど、お母さんの心の中では、
よっつ目の約束……。
『無事に帰ってきてね』
これが一番大事な、
ロッティーに守ってほしい約束でした。

「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい」
お母さんが見送ってくれました。
やがて手をふりながら、ムーンライトの森へ、
引き返してしまったのです。

お母さんの姿が見えなくなると、
急にロッティーは心細くなって……。
『知らない森』に行くのを、止めようかと思いました。

ダメ、ダメ!
お母さんとの約束、ウソをつかない。

もしも、ここで行くことを止めたら……。
『知らない森』に行きたいと思っている、
自分にウソをつくことになります。
お母さんとの約束を守らなければいけません。

背中のリュックには、
磁石と食べ物とお水が入っています。

元気いっぱい! ロッティーは、 
だれも行ったことのない『知らない森』を目指して、
一歩一歩と、進み出しました。

――くまの子ロッティーの冒険の始まりです。



   ロッティーしじんと出会う

ゴツゴツした岩ばかりで、草木もはえていない。
そんな寂しい荒れ地をロッティーは歩きます。
時々、磁石で方向をたしかめたりしながら進んでゆく――。
荒れ地をこえると『 知らない森 』が見えてくるはずです。

しばらく歩くと……
荒れ地の黒い岩の上に、だれかがすわっています。
近づいてよく見ると、一匹の大きなブタでした。

「こんにちは。ブタさん」
ロッティーはあいさつをします。
すると、そのブタは……
「ん? 今、わたしのことをブタさんと呼んだかね?」
「はい。だってブタさんだもの」
「なぜ? わたしをブタだと決めつけるのだ」
「えっ? ちがうの」
そんなことをいわれて、ロッティーはおどろきました。
肩からマントをはおり、とんがり帽子をかぶって、
ギターに似た楽器マンドリンを持った、
大きなブタに違いありません。

すると、ブタはマンドリンをかき鳴らしました。


   空は青いと だれが決めたぁ〜♪
   雲は白いと だれがいったぁ〜♪

   ホントの色なんか分からない
   見た目じゃあ 中身は分からない
  
   空の色も 雲の色も みんな
   思いこみで決めつけるなぁ〜♪

  
なんだか、ヘンテコリンな歌をうたっています。

「どうだい、分かっただろう?」
「なにが?」
「きみは見た目で、わたしをブタだと決めつけたのさ」
「ブタさんじゃないなら、あなたはだぁれ?」
「わたしはしじんなんだよ」

やけに偉そうに、ブタが胸を張って言いました。

「しじんって? そんな動物はしらないわ」
「しじんは動物ではない。月や星や風とも話ができるんだ」
「あたし、先を急いでいるので……さよなら」
この変ったブタの元から去ろうとしましたが……。

「あ、ちょっと、きみ!」
「なにか?」
「わたしの話をもっと聴きなさい」
「あたし『 知らない森 』に行くのに急いでいます」
「ふむ。だが、きみはしじんのことを知りたくないのかね?」
「……じゃあ、しじんって、どんなことができるの?」
「いい質問だ! しじんは『心の目』を持っている」
「こころのめ?」
「だから、真実が見えるのだ」
「ふーん……」
ロッティーには、ブタのいうことがよく分かりません。
「大事なことは目には見えない。だから『心の目』で見るのだ」
「はい」
「君はだまされやすそうだから、用心しなさい」
「ありがとう、しじんさん。じゃあね!」
ロッティーは再び『知らない森』を目指して、
早足に歩きはじめました。


   この世は ウソがいっぱいだぁ〜
   あいつも こいつも ウソつきだぁ〜

   だれかがウソをついても みんな信じてしまったら
   それはウソじゃあない ホントになるんだぞぉ〜

   ホントの中に混ざってる ウソがいっぱい
   ウソにかくれた ちょっぴりのホントもあるさ

   言葉を信じるな 『心の目』で見るんだ
   お人好しは気をつけろ カモにされるぞぉ〜
  
   だまされるなぁ〜 だまされるなぁ〜♪


自分をしじんだという変なブタが、
マンドリンをかき鳴らして、また歌っています。
その歌声は大空にすい込まれてゆく――。





   ロッティーと『知らない森』の王様

――ロッティーは荒れ地をぬけて。

やっと『知らない森』の入口にたどりついた。
遠くから、あこがれていた『知らない森』は、
どんな所だろうかと、胸がわくわくします。

ロッティーは、どんどん中に入って行きました。
だけど見えくる風景は……
はえている草や木も、咲いている花も、
ムーンライトの森とあまり変わりません。
きっと『知らない森』には、ふしぎな木や花が、
いっぱい咲いているんだと思っていたのに、
普通の森だったので、ロッティーはがっかり……。

ああ、こんな森だったんだぁー。
そうと分かったら、ロッティーは急にお腹が空きました。
今日は本当にたくさん歩きましたから――。

木の株に腰かけて、ロッティーは、
背負っていた、リュックを開けました。
中には、香りのよい真っ赤なりんごが三、四個入っています。
お母さんが『知らない森』に行くロッティーのために、
持たせてくれたものです。

りんごを食べたら、お母さんの待つムーンライトの森へ
早く帰ろうと思いました。
お母さんのことを思うとロッティーは、
ちょっぴり切なくなりました。
りんごの味も甘酸っぱくて……。

「おまえは何者だ!」
いきなり背中から、声が聴こえてきました。

びっくりして、振り向いたロッティー。

一匹のくまの男の子が立っていました。

「あらっ! こんにちは」
「おまえはどこからきた?」
ずいぶん偉そうに、くまの男の子がロッティーに質問します。
「あたしはロッティー。ムーンライトの森からきたのよ」
「ムーンライトの森? ああ、荒れ地の向こうの『知らない森』のことか?」
「知らない森ですって?」
ロッティーの住んでいるムーンライトの森はこちらでは、
どうやら『知らない森』と呼ばれているようです。

「じゃあ、ここの森はなんて名前なの?」
「ムーンウインドの森さ。きれいな名前だろう」
「ええ、そうね。あなたの名前は?」
「俺さまか?」
ロッティーに名前を聞かれて、くまの男の子はニヤリと笑いました。

「俺さまは、ムーンウインドの森の王様チャムだぞ!」
「ええーっ! 王様?」
くまの男の子は、ボール紙に金色の折り紙をはりつけて作った。
おもちゃの王冠をかぶっています。
とても王様には見えませんが……
だけど今までだまされたことがないロッティーは、
すっかり王様だと信じてしまいました。

「まあ! 王様だなんてすごい」
「えっへん!」
チャムは偉そうに咳ばらいをします。
「ところで、王様にみつぎ物を持ってきたんだろうな?」
「えっ、みつぎ物?」
「王様へのプレゼントの品だ」
「あのう、りんごをどうぞ」
ロッティーは、チャムに差しだしました。
「なんだ? りんごか、しけてるなぁー」
文句を言いながらも、
りんごをあっという間に食べてしまいました。

「もっと、みつぎ物は持ってないのか?」
ロッティーのリュックの中をのぞきこんでいます。
「りんご……もう、ひとつ、どうぞぉー」
「うんうん」

そして、チャムはロッティーのりんごを、
かってに全部食べてしまいました。

「あぁーうまかった!」
王様チャムはとても満足そうでした。
ロッティーは食料のりんごを食べられてしまって、
これからムーンライトの森に帰りたいのに……。
お腹がペコペコで動けません。
「あたしのりんごが……」
空っぽのリュックを見て、泣きべそをかきました。

「ん? おまえは腹がへっていたのか?」
「はい、王様……」
もうしわけなさそうな顔でチャムは、
ロッティーを見ていましたが……

「そうだっ! 俺さまにまかせろ!」
ふいに、手を打って大声で叫びました。

そして、ロッティーの手をらんぼうに引っ張ると、
ムーンウインド森の奥へつれて行きました。



   にんじん畑のロッティー

――そこは見わたすかぎりの、にんじん畑です。
赤く実った、にんじんが地面からニョキニョキとはえています。

「どうだ、うまそうなにんじんだろう?」
チャムが自慢気に言いました。
「赤くておいしいそう!」
「腹がへっているなら食べていいぞ」
「ホント?」
「えんりょするな」
「王様ありがとう!」

そういわれて、ロッティーは畑からにんじんを引っこ抜いて、
四、五本食べたら、お腹がいっぱいになりました。

「もう食べないのか、えんりょするな!」
「もっと、もらってもいいの?」
「もっともっと欲しいだけもっていけっ!」
「わーい」

ムーンライトの森で帰りを待っている、
お母さんのおみやげにしようと、
ロッティーは、にんじんをどんどん引っこ抜いて、
リュックいっぱい詰め込みました。

「こらー!」

大きな声で怒鳴られて、おどろいて振り返ると、
クワをもった野うさぎがにらみつけています。

「にんじんドロボウめ!」
「ええー! ドロボウ?」
ロッティーはドロボウ呼ばわりされて、びっくりしました。

「わしの畑のにんじんをいっぱい盗みおって!」
野うさぎはクワをふり回して、ものすごく怒っています。
「だ、だってぇー、王様が食べてもいいって……」
「王様?」
「はい、王様が欲しいだけもっていけと……」
「ウソをつくな! なんて悪い子だ」
「そんな……」
ロッティーは野ウサギの農夫に怒られて、
どうしてよいか、オロオロして困ってしまいました。

「王様! 王様ー!」
いくら呼んでも、どこにも見当たりません。
どうやらチャムはひとりで逃げてしまったようです。

そして……
ロッティーは罰として、野うさぎの畑を手伝うことに、
草むしりと水くみを百回やらされて、もうヘトヘトです。
それで、なんとか野うさぎの農夫に、
『にんじんドロボウの罪』を許してもらいました。

――それにしても、王様さえいてくれたら、
あたしが、にんじんを盗んだんじゃないって、
分かってもらえるはずなのに……。

悔しくて、ロッティーは涙がこぼれました。

「クックックッ……」
変な笑い声が聴こえてきました。

大きな木の陰から、ひょっこりとチャムが
顔をのぞかしています。

「あー!」
思わず、大声で叫びました。
「王様のせいで、あたしがドロボウにされたじゃないの」
チャムの顔を見たとたん、ロッティーは腹が立ってきました。

「なんで、俺さまのせいなんだよ?」
「だってぇー、にんじん食べてもいいっていうから食べたのに……」
「食べてもいいって言ったけど……俺さまの畑だとは言ってないぞ」
「えぇー?」
「おまえが畑の持ち主をきかないで、かってに食べたのが悪いんだ」
「……そんな」
たしかに、ロッティーはお腹が空いていたので、
ここをチャムの畑だと思いこんで、食べてもいいと言われて、
ガツガツにんじんを食べてしまったのです。

「しかも食べただけじゃなくて、リュックにまで詰めただろう」
「ええ、そうよ」
「欲ばるから、あんなに野うさぎが怒ったんだ」
「欲ばる……」
ロッティーはお母さんとの約束を思い出した。

欲ばらない……。
ロッティーは欲ばって、ひどい目にあったのです。
欲ばった自分も、悪かったと反省しました。

――こんな森にいるのは、もうたくさん!
ムーンライトの森にすぐに帰ろうと思いました。

「じゃあ王様、さようなら!」
さっさっと帰り始めました。
「おい! ちょっと待てよ」
ロッティーの腕をチャムがつかみます。
「なぁに?」
「おまえに、きれいなものを見せてやるぞ!」
「きれいなものって?」
「いいから、ついてこいよ」
腕をつかんだまま、無理やりロッティーを
引っぱっていこうとチャムがします。

「痛いわ、はなしてよぉー」



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