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そんなことを考えながら走っていると、目の前に太い木が現れた。
そこに少し変わった枝が見えた。

「ん、あれは、枝、じゃない?」

よく見ると枝ではなく錆びた刀だった。

「あれは武器になるかな?」

俺はその錆びきった刀を引き抜いた。
もう鋭さも輝きもどこへやらという感じだったが、ないよりはマシだ。

俺はそれを持って更に奥へと進んだ。



朝倉純一視点

「はぁ、はぁ…」

俺はことりを抱え、ひたすら来た道を走っていた。
澄乃さんも必死でついて来ているが、足取りが危なっかしい。

「澄乃さん、大丈夫?」
「えぅ、大丈夫だよ、ことりさんは?」
「ああ、眠っちまってるけどな、出来れば事が治まるまで寝ていてほしいよ!」

出雲さんに抱きかかえられた時、既にことりは気絶していた。
意外とことりは臆病なのだ。

「あ、見えた、僅かに明るい!澄乃さん、ダッシュだ!」
「ま、待ってよ〜〜〜!」

俺達は無我夢中で走り、森を抜けた。

しかし、まだ真っ暗だった。
腕時計で時間を確認すると最悪なことに、時計は沈黙。
電池切れだった。
(なんてこった、これじゃあ時間もわからない、あれからかなり動いてる気がするが)

俺はことりをその場へ寝かせた。
そして動かない腕時計を外し、ポケットへ突っ込むと、俺も腰を下ろした。

疲れた。肉体的にも神経的にも。

こんなヤバい幽霊とは思わなかった。
正直、夜の風見学園で出会った霧羽香澄みたいな可愛い幽霊を期待したんだが…。

「えぅ〜、朝倉さん、どおぞ」
「へっ?」

俺は澄乃さんから白くて丸い物を差し出された。

「澄乃さん、これなに?」
「えぅ〜、あんまんだよ〜、元気の源。冷めちゃったけど」
「澄乃さん、じゃあいただくよ、ありがとう」

俺は受け取ったあんまんを半分に割り片方を口に押し込んだ。
甘い物は疲労を取る、神経的な疲労は取れないが、なんだか少し体が軽くなった気がした。

「朝倉さん?!」
「えっ?」

声のする方へ向くと、そこには見覚えのある女性が立っていた。
確か出雲さんの。

「しぐれさん!」
「えう、しぐれさんだよぉ!」
「お二人とも、どうしてこんなところに、白河さん!」
「しぐれさん、大丈夫です、ことりは眠ってるだけですから」
「そうですか、でも何故あなた達がこのような場所にいるのですか?」
俺はこれまでの経緯を説明した。

「そうでしたか、野盗たちが…、おそらく成仏出来ずにさまよっているのでしょう」
「しぐれさん、彼方ちゃんを助けてあげてよ!」
「大丈夫です、野盗達の目的は私なのでしょう、私が目の前に現れれば、野盗達が彼方さんや皆さんに危害を加えることはないでしょうから」
「でも、そんなことしたらしぐれさんが危ないですよ!俺も出来ることあれば…」
「朝倉さんや澄乃さんはここにいてください」
「しぐれさん…」
「私は行きます。澄乃さん、彼方さんと芽依子は必ず助けます!朝倉さん、可愛い恋人さんをしっかり守ってあげてください!」

しぐれさんはそう言って走り出した。やがて森の奥へと消えていった。


橘芽依子視点


「うりゃあ!」

バキッドカッ

彼方さんと離れた私は、拾った棍棒で野盗共と応戦。
しかし数は多くないものの、亡者だからか、少し時間が経てばすぐ起き上がる。

「こりゃキリがないな、私も逃げるとするかな」
「ふふふ、あの時の巫女も数百年経っては少しは変わったかと思ったら、相変わらず気は強いようだな」
「ふん、そちこそ相変わらず武器の腕は大したことないみたいだな」
「ふん、何とでも言え、龍神さえ手に入ればいい、その為の剣腕だからなぁ」
「頭も相変わらずだな、龍神様はいないと言っておろう」
「そんな話が信用出来るか、またわしらが来る前に逃がしたな」
「それはお前達のご想像にお任せするさ、これ以上は付き合いきれん、私は行く」

そう言い放ち私は野盗を振り払って森の奥へと駆け出した。

そういえば彼方さんはちゃんと逃げたかなぁ…
あれで結構ドジだから。


出雲彼方視点


錆びた刀を拾った俺は暗い森をただ道なりに進んでいた、夜空を見上げると、満月が輝いていた。

「今頃、しぐれやつぐみさんが心配してるだろうな、つぐみさんのことだから、半年ぐらいタダ働きかも」

そんなことを呟きながら歩いていた。

腕時計を見ると、短い針は1と2の間を差していた。
深夜1時半、もう寝てる時間だよ。
あるいは、しぐれと夜の営みを……

「って何を考えてるんだ俺はぁ!」

頭を何度か横に振って、そんな考えを振り払い、また進むことにした。

芽依子はどうしたか、澄乃は転んでないか、朝倉さんは無事出られたか、ことりさんは目を覚ましたか、それらばかりが気になっていた。
なんでこんなことになったんだろ、幽霊退治って言うから来たのに…。
あれは成仏出来ない亡霊じゃないか。


ひたすら進んでいくと、どす黒い泉があった。
その泉の水は黄色く変色して異臭を放ち、とても飲めそうにない。
辺りには屍の残骸が散らばっていた。

「また、不気味な場所に出ちまったな、引き返そうか」

「キィィィィィ」

「!!」

背後からの奇声に思わず背筋が硬直した。
そっと後ろを振り向くと、そこには腹だけ出て骨と皮だけにやせ細り、肌が焦げ茶色に変色した化け物が立っていた。まさしく餓鬼。
目つきからして、もう理性はどこかへ飛んでしまっているようだ。

「うわぁぁぁぁ」

その姿に驚いた俺は一歩二歩三歩と後退りした。

涎を垂らした餓鬼は、俺に一歩ずつ近づいてくる。


喰われる、俺も残骸になっちまう。


ふと、俺は錆びた刀を持っていることに気付き、それを両手で持ち構え、刃先を餓鬼へと向けた。

「キィィ?!!」

餓鬼が一瞬怯んだ。

俺はその一瞬のスキ見て、森の奥へと走った。
後ろを振り向かず、ただひたすら走り続ける。
餓鬼が追っかけてきてる様子はない。
俺はひたすら走った。

「はあはあ」

無我夢中で走る。
もしかしたら森の中をグルグルと回っているかもしれないが、今はそれどころじゃない。

どん!

「わぶっ」

何かにぶつかった、感触からして人間だ。
もしかして芽依子か?
俺はそっと目を向けると、そこにいたのは野盗の頭だった。

「見つけたぞ、小僧」
「や、やべ…」

ついに見つかってしまった。
万事休すか…、そう思った時だった。

「彼方さーん!」
「芽依子ー!」
俺が来た方の道から芽依子が走ってきた。

「芽依子、すまん、ドジっちまったよ」
「馬鹿者、どうして逃げなかったんだ!?」
「いや、逃げたよ、化け物から」
「とにかく、話は後だ!」
芽依子が俺の手首を掴み、引いて逃げようとした。
しかし野盗の亡霊達に囲まれ、逃げ道は完全に塞がれた。

「くっ」

悔しさに唇を噛む芽依子。

「ははははは、もう貴様等に逃げ場はないぞ!」

その時だった。
野盗の体が月明かりに照らされた。
すると照らされた体が、あの廃墟で出会った時と同じゾンビと同じ物となった。

「マジかよ、月の明かりで」
参った、四方を囲まれては逃げ場もない。
戦って勝てる相手でもない。
万事休すか…。


そんなことを考えていた時、ふとあることに気付いた。

ゾンビは炎に弱かった、かな?

一応、マッチとライターはある。
ただ火を近付けたって何も起こらない。
それなら炎の剣なら。
漫画で見たことあるだけだが。

「芽依子!」
「なんだ彼方さん!」
「いい考えがあるんだけど」
「いい考えだと?」
「ああ、こいつらはゾンビだから、炎に弱いんじゃないかなって」
「そうか、しかし炎はどうする!?」
「ライターとマッチがあるからそれで…」
「阿呆!そんなもんが奴らに通用すると思うか!?」
「だからさ、話は最後まで…」
「野盗共は一人ずつ倒していくしか…」
「て、聞いてない…、もういい、口で言ってダメなら実践あるのみ!」

俺はポケットからライターを取り出し、それを素早く分解、ライターのオイルを錆びた刀にふりかけ、それをまんべんなく塗り潰した。
全部は塗り潰せないが、それでもいい。
そして俺はマッチに火を灯し、それをオイル塗れの刀に近付けた。
次の瞬間、刃が火柱の如く燃え上がった。
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あきゅろす。
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