04



「あの、たけちゃん? ここって……」


 たけちゃんのようなスーパー御曹司が泊まるにしてはどこか安っぽく、おれが泊まるにしてはひいひい言えるような、一室。ここって、おれの家でもないし、たけちゃんの家でもないし。

 え?


「たしかに、手は出さないは条件だったんだけど」

「はあ」


 さっきの、お父さんがおれとたけちゃんを認めなくてそのときにどうしてもっていうなら……ていうやつか?

 扉を閉めたたけちゃんが、おれの手から持っていた鞄を奪い、そばにあった綺麗なテーブルの上に置いた。


「おまえのお母さんが、今日だけなら、おまえを帰さなくていいって」


 そのまま、おれの手を掴んで、中へ進む。不意に手をぱっと離されて、バランス感覚を失ったおれは、そのまま後ろにあった大きなベッドに、背中から倒れ込む。

 心地よいスプリングの感覚に、しかし、再び心臓は暴れる。


「おれががまんできない、なんて、おまえあそこで煽ってくるし」

「え、た、たけちゃん?」


 同じくベッドに乗り上げたたけちゃんが、おれの視界の天井を大きく遮る。

 どきん、と、心臓が高鳴る。

 加減されてはいるものの重みを感じるたけちゃんの体。こちらを見つめるたけちゃんの瞳は、悶絶級に艶っぽい。色気が、オーラみたいに体からにじみ出ている。


「う……」

「また赤くなる」

「だって……こんなの、うれしすぎて」

「……」

「へ?」

「今のは、真夏が悪い。予定通り、今日は家には帰さない。ちょっとイチャイチャして俺の理性がしっかり残っていればそのまま遅くなっても家に帰してやろうと思ってたけど、もうだめ、切れた」


 たけちゃんが、のしかかるように、この小悪魔と、おれの体を包み込むようにすっぽりと抱きしめる。理性が切れたなんて言っているのに、たけちゃんはまだまだ大人で、おれの髪の毛をやさしく梳いている。

 ドキドキしながらも、おれはたけちゃんの背中にぎゅっと抱きついた。

 はあ、て、ため息つかれたけれど。


「真夏」

「なに、たけちゃん」

「言っとくけどね、おじさんはあれだ、しつこいよ」


 なにが、と、聞く前に、やさしく唇がふさがれた。突然のことでぴくりと体を跳ねさせたおれは、それでも応じるようにしつこいおじさんの肩に手を回した。

 たけちゃんの体温に、余裕もなく溺れていく。


 恋をしている。溺れる。たけちゃんという人間のすべてに。


 耳の奥では、何発も続けて放たれる花火の音がいつまでも鳴り響いていた。今年の夏の、特別なあの音、あの花火のいろ。



 ――ねえ、たけちゃん。


 早く大人の仮面をはがして。同じくらいおれに溺れて、おれを求めて。それで、おれにさわってほしいんだ。

 そんなことを思っていたおれは、その日、どれだけたけちゃんがおれをだいすきなのかを、身を持っておじさんのしつこさで知らされることになるのだった。


――End――

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