[携帯モード] [URL送信]



優しく微笑むくらいならの続き
!現パロ注意
!原作ペンギンっぽい(not双子)




あの赤い奴が来て一週間。
店長はいつも通り優しいし、特に変わったことは起こっていない。
ただ、声を上げて笑っていた店長の顔が忘れられず、時折確認するように店長を見るようになった。

「ご注文はお決まりですか」

「お前さあ」

「そのようなメニューはありません」

「話聞けよ!」

荒げられた声にびくりと肩が揺れてしまって、冷静を装った対応は台無しになった。
赤い奴もといキッドさんは凶悪な顔を惜し気もなく活用して、さながらヤのつく自由業の方々のようだ。
正直怖いから近付きたくない。
でもおれが接客しなければ、店長がすることになってしまって、本末転倒になる。
おれは店長からできるだけキッドさんを遠ざけたかった。
どうしてそんな考えに至ったのか自分でもよくわからなかった。
ただ、店長とキッドさんが話しているのを聞いていると、腹の辺りがムカムカする。

「今することねぇんだろ?ちょっと付き合え」

キッドさんは目で向かい側の席に座れと言っているのがわかった。
たしかに今は客の少ない午前中で、数人いる客はカウンター席にしかいない。
カウンター席に座る客は基本的に店長が相手をするので、おれの出番は当分ないだろう。

「…なんですか」

無視をして騒がれたりしたら店長に迷惑がかかるから、とりあえず言われた通りに席に座った。
怖じ気づいたわけではない、断じて。

「お前、高校生だろ?てーことは十歳差か、ふーん」

「な、なんの話ですか」

「お前とキラーの歳の差」

「はあ!?」

勢いよく椅子から立ち上がったためにガタガタと音を立てた。
元々静かだった店内が、しんと張り詰めて、おかしそうに笑いを堪えるキッドさんが憎らしい。

「…ペンギン?」

少し驚いた声でおれの名前を呼んだ店長とカウンターの客に頭を下げて、キッドさんを睨む。
店長に見つかってしまったため、もう一度椅子に座り直すわけにもいかず、椅子を元の位置に戻して、更衣室に逃げ込んだ。
自分のロッカーの前まできて、はたと接客の途中で投げ出したことに気づいた。
でも、相手はキッドさんだし、きっと文句とかは言わないだろうし、と考えてそういう問題ではない、と思い直す。
だが、今フロアに出ていったところで役に立たないのは目に見えている。

「何やってんだ、おれ…」

だいたい、さっきの場面はそんなに驚くところだっただろうか。
店長とおれの歳の差なんて、話が合うのか、とかそんな会話に繋がっていくだけだったかもしれない。
いや、それ以外に何が考えられるというのか。
おれは、何と勘違いしようとしていたのか。
ああ、くそ、顔が熱い。

「ペンギン、大丈夫か?」

「ふわあっ!?」

どくん、と心臓が大きく跳ねた。
更衣室の出入口に顔を向けると、不思議そうな顔をした店長と目が合った。

「キッドに何か言われたか?あいつ口が悪いから、気分を悪くしたならごめんな」

悪い奴じゃないんだよ、とキッドさんを庇う店長に、また腹の辺りがムカムカした。
だけれど、そんなことは店長に言えなくて、おれは口をもごもご動かしただけだった。
店長が立つドアの向こうで、にやにやとこちらを覗いているキッドさんと目が合った。
その姿になぜだかカチンときて、何も考えずに店長の手を掴んで更衣室に引き込んだ。
ばたん、とドアが閉まった。

「ペンギン、どうした?」

慌てることもなく、店長はおれの頭を撫でた。
いつも落ち着いていて、当然だけれどおれより大人で、慌てたところなんて見たことがない。
そんな店長の崩れた顔を、いつか見てみたい。
いつか、見てみたかったのに。

「あ、そうか」

おれは、おれじゃない誰かに、店長の普段見せない顔を見せつけられたことが許せなかったのだ。

「ペンギン?」

一人納得したおれを呼ぶ店長はどこまでもゆったりしていて、いつも通りだった。
その余裕のある顔も好きだけれど。
好き、なのだ。
おれは店長が、キラーさんが好きなのだ。
だから、キッドさんと話したり、庇ったりすると腹の辺りがムカムカした。
要は幼稚な嫉妬だ。
キラーさんがキッドさんの前で声を上げて笑ったあの時から、いや、もしかすると初めて見た時から好きだったのかもしれない。
だから、入ったこともない喫茶店のアルバイトをしようと思ったのかもしれない。

「…キラーさん、」

なに?、と優しく微笑んでくれるキラーさんに、おれは宣戦布告をしなければならない。
少し足りない身長を背伸びで誤魔化して、掴みっぱなしだった手をぎゅっと握り直して、キラーさんが状況を理解する前に、掠めるように奪った。
ファーストキスがレモン味なんてただ迷信だ。
だって、おれのファーストキスは香ばしくて苦いコーヒー味だった。











あまいあまいキスをください
(真っ赤になったキラーさんの顔はとてもあまいものだったけれど)











社会人×高校生+幼馴染み=大胆な行動


あきゅろす。
[管理]

無料HPエムペ!