プロローグ
「今日は暇になりそうだねぇ。客、来そうにもないよ。昨日はあんなに客人が多かったのにねぇ」
年期の入った窓枠に肘をかけ、女は暇そうに欠伸を噛み締める。
ガラス越しに見える景色はいつもと変わらず、客の気配はまったく感じられない。
「暇ぃ」女は軽く息をついた。
窓辺に差し込む日により、女の髪糸がひと際煌いている。彼女は日本人らしからぬ、珍しい銀の髪と青い瞳を持っていた。
青い猫目をキョロキョロ動かし、客が来ないかとしきりに姿を探す女の様子を見守っていた少年はクスリと笑う。
少年は女とは対照的に、日本人らしい黒髪と深い茶の瞳を持っていた。
「今だけかもよ、ゆっくりできるのは。昨日もそうやって午後から忙しくなったでしょう? 暇な時間なんて、ほんのひと時だよ」
「今日は来ないかもしれないじゃないか。
菜月(なつき)、あたしと賭けしない? 午後に客が来たらあんたの勝ちで、来なかったらあたしの勝ち。敗者は勝者の言うことを聞く。どう?」
女の案に少年は仕方なさそうに肩を竦めた。
「ダメって言ってもやるつもりでしょう?」
当たりだとばかりに女は悪戯っぽく笑い、ぺろりと舌を出す。
暇で仕方のない女にとって、相手が否を唱えようとも賭けを実行するつもりだった。
何をしてもらおうか、女は賭けの結果後のことで頭が一杯になった。
まだ結果も分かっていないのになぁ、少年は可笑しそうに女を笑いカウンターに入った。
「賭けの結果は気長に待つとして紅茶でも淹れようか。風花(ふうか)、何か飲むでしょう?」
「ン。カフェオレがいい。冷たいヤツ」
「はいはい」
少年はやかんに水を入れ始める。
ザァー、ジャー。
断続的に聞こえる水音を耳にしながら女はカウンターに目を落とし、忙しくキョロキョロ。
台ふきんで綺麗に磨かれたその上の隅に、貼り損ねたチラシがひっそりと置いてある。
紙には次のように書いてあった。
いらっしゃいませ、こちらはどのような依頼でも承っている“何でも屋”でございます。
文字通り、おつかいや宿題などの小さな依頼から、誰にも言えない大きな依頼まで“何でも”承っております。(一部例外もございます。ご了承ください)。
小さなこと大きなこと何でもなんでも。何かありましたら、どうぞ“何でも屋”へ。
アナタのご来店、お待ちしております―――。
To be Continued...
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20091212
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