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腕の中の温もり小さな願い残片の想いを掬う の続きです







愛すること。
愛されること。
自分には関係のない世界だと、
本気で思っていた。





陽射しが傾き始め、夕陽色に染まるグランドと校舎。
そのグランドからは野球部やサッカー部などの声が聞こえる。
それに気付いた黒子が立ち止まってグランドを見下ろせば、遠くでボールを追う者たちの姿が目に入った。
その姿に、一瞬だけ今までの自分たちの姿が重なる。
追うボールは違えども、全力で駆け抜けた日々。
ただバスケをすることを楽しんでいたはずなのに、いつしか黒子は周りとのズレを感じていた。
好きで始めたのに全く楽しいものではなくなってしまったバスケ。
いっそ周りにいたチームメイト達も同じように嫌えれば話は簡単だった。
だけど嫌えなかった。
バスケの価値観は合わないにしろ、3年間ともに過ごしたのだ。
そんな簡単に嫌えるわけがない。
だからこそ黒子は離れると言う選択肢を選んだ。
他の5人が強豪校に行くのに対して黒子が選んだのは創部して間もない新設校。
キセキ達に勿体ないと止められることはあったが黒子はそれでも譲らなかった。
その中でただ一人、未だに諦めてくれない人。
その人物を心の中で思い浮かべれば自然とため息がでる。

「ため息をつくと幸せが逃げるのだよ。」

唐突にかけられた声。
顔を見なくても声の主は簡単にわかる。
黒子は心の中で厄介な人物に会った、と思いながらゆっくりと顔を上げて声がした方を見る。

「今日のお前のラッキーアイテムでも教えてやろうか?」

「別にいいですよ。もう今日が終わることですし。」

視線を変えた先にいたのは緑間だった。
部活をしている生徒以外はもう下校しているはずの時間帯なのになぜ緑間がいるのか。
意図が掴めなくて自然と警戒してしまう。

「ちなみにラッキースポットは屋上なのだよ。」

「今から帰る僕には何も関係ない情報ですね。」

話したくないと言わんばかりに黒子はすっぱりと切り捨てる。
けれども緑間はそれを特に気にした様子もなく口を開く。

「お前がこの時間までいるなんて珍しいな。」

「提出物があったんです。」

簡潔に答えられる言葉に緑間は特に気分を害した様子はない。
この前といい、今といい、どうして今更自分に関わってくるのか。
そんなに面倒見がよかったかと考えるがすぐさまそれはない、と否定をし緑間を見る。
そう言えばカバンをまだ教室に置いたままだ、とどうでもいいことを考えながら。

「緑間君こそこんな時間まで何をしていたんですか?」

「大型犬をからかっていた。」

「大型犬?」

真顔で言う緑間の言葉に黒子は眉を寄せて反芻する。
言っている意味がわからない、と伝えると緑間は中指で眼鏡を上げる。

「お前の飼い犬だ。」

「…人間ですよ、黄瀬君は。」

確かに黒子に懐いているところや抱きついている姿は傍目から見れば厄介な大型犬に見える。
黒子自信も少なからずともそう思っていたので、言い得て妙だと思いながらも緑間の言葉を一応否定をしておく。

「無条件で傍にいられるのもあと少しなのだな。」

遠くから微かに聞こえる声に視線を外に移して。
グラウンドで走る生徒達を見ながら緑間はぽつりと呟く。

「それで、結局お前はあいつに選択肢を与えないまま離れていくのか?」

「黄瀬君は自分で答えを見つけて選べます。」

「それは本気で言っているのか?」

「彼は、弱くないです。」

いつも以上に弱々しく、そして憂いを帯びた声。
その声に緑間はグラウンドから黒子に視線を移す。
視線を移せばそこには今にも消えそうに、儚げに微笑む黒子がいた。

「僕がいなくても、彼は自分の世界を作れます。」

緑間に話していると言うよりはどこか自分に言い聞かせているに近いそれ。
自分が今、泣きそうな顔をしていることなんて全く気づいていないだろう黒子を抱きしめたいと言う衝動に駆られるが、緑間はそれを踏みとどまるように右手を強く握る。

「お前がいる世界を作りたいのだろう。何故それに応えない。」

「応えたところで最後に残るのは痛みです。」

「それは極論なのだよ。」

「でも、遅かれ早かれいつか必ず別れは来ます。」

「だから傷が浅いうちに離れておくとでも言うのか?」

「自分勝手なんです、僕。」

すみません、と呟く黒子。
普段全く意思表示をしないくせに決めた事は絶対に曲げない。
尊敬できる反面、時々物凄く面倒だと緑間は感じていた。

「俺はお前が好きなのだよ。」

言われた言葉に黒子はぴくりと肩を揺らす。
キスまでされたのだから何となくわかっていたが、面と向かって言われると現実感が増すと黒子は感じていた。

「出会った頃から、ずっと。だけどお前の世界にはいつの間にか黄瀬がいた。」

いつまでもこの関係は変わらないものだと勝手に思い込んでいた。
けれどある時、黄瀬も黒子もお互いがお互いを想っているのだと緑間は知ってしまった。
それはどこか黒子に置いて行かれた感覚がしたけど、それ以上にそれでもいいと思えていた。

「気付いていたか?黄瀬といる時のお前は俺達の中の誰かといるより幸せそうに笑っていた事を。」

それを見て緑間達は黒子が本当に黄瀬を好きなのがわかった。
だけどだからと言って諦めきれるわけもないので多々邪魔をしてきたのだ。

「俺はお前に笑っていてほしい。そのためには悔しいが黄瀬が必要なのだよ。」

「そ、んな事、」

「ないとは言わせないのだよ。」

いつも以上に真剣な目で言い放つ緑間に黒子は何も反論出来ずにいた。

「お前は黄瀬をどう想っている?それぐらいは聞かせろ。」

「ぼ、くは、…。」

開いた口からは何の音も紡がれない。
言葉にしてはいけないと黒子は思っていたから。
ここが学校の廊下で誰かに聞かれたら困ると言うことではなく、言葉にしてこれ以上黄瀬への想いを自覚するのが嫌だった。

「僕は、」

それでも許されるなら、伝えることの出来ないこの想いを誰かに知っておいてほしい。
そう黒子は思っていた。

「黄瀬君の事が、好きです。」

小さく、確かめられるように紡がれた言葉。
言ってはいけないと戒めていた言葉を紡げば、すとん、と胸に何かが落ちたような感覚がした。

「多分、初めて出会ったときからずっと。」

紡いでしまえば今まで心の奥底で蓋をしていた思いが溢れて、自然と口が動いていく。
けれどそれを黒子も緑間も止めようとしない。

「あの時から、僕の世界にはいつの間にか黄瀬君がいた。そして彼が笑ってくれるのが、傍にいてくれのが僕は嬉しかった。だから僕は黄瀬君の事が好きだって自覚したんです。」

誰にも気付かれてはいけない淡い想い。
それでも想うことは止められなくて。
伝えられないことに苦しいと感じることもあったけど隣にいて一緒に笑うことが何よりも愛しかったから。
だから黒子は何も言わなかったのに、最後まで貫けなかったのはやはり黒子自身も離れることに思うところがあったようだ。
今にも泣きそうな顔をして言葉を紡ぐ黒子を見ながら、緑間は一つだけため息をつく。

「アイツならお前を裏切らない。それは好きと言う想いだけでは足りないか?」

問われて黒子はすぐに言葉を紡げなかった。
足りないなんて、本当に思っているわけがなかった。
人の気持ちだからいつかは変わってしまうかもしれないけれど、それでもその想いさえあればそれに勝るものはない。
でも現実はいつだってそんなに上手く行かない。
好きだからで全てが済む程ご都合主義な世界ではない。
それをわかっているからこそ、黒子はわざわざこんな不毛なことをしている。

「好きだからこそ、黄瀬君には幸せになってほしいんです。僕よりももっと黄瀬君に似合う人はいるはずですから。」

言ってしまえば簡単なことだけどそれが一番難しいこと。
両手を痛いくらい強く握って、いつものポーカーフェイスを無理矢理保とうとする黒子。
だけど不意に、頬に感じた何かが流れる感覚。
それと共に不鮮明になる視界。
水で覆われたように揺らめく景色に首を傾げて目元に触れれば暖かな水の感触が伝う。
そこで初めて黒子は自分が泣いているのだと理解した。

「な、んで、?」

意識してしまえば両の瞳からは涙が溢れ出る。
戸惑いながらも拭っていれば緑間の方からため息が聞こえる。

「泣く程嫌ならそんな嘘はつくべきではないのだよ。」

「嘘なんて、」

「ついていないのならば泣く理由などないはずだ。」

明確な意志を持っている緑間の言葉は黒子に逃げる隙を与えない。
それは紛れもない真実だから。
嘘を積み重ねられなくなった黒子がどう言おうか言いあぐねていると緑間は眼鏡のフレームを上げる。

「それに、多分離れることなど無理なのだよ。」

きっぱりと言い切る緑間の言葉に黒子は首を傾げる。
どう言う意味なのか問おうとする前に緑間の口が開く。

「なぁ、黄瀬。」

何でもないように発した言葉。
それは今この場にいてはいけない人の名前。
だから、緑間のたちの悪い冗談だと思った。
だけど見つめている瞳は黒子を捉えていない。
その後ろの何かに瞳を向けていることがわかった。
彼の人がいないこと。
ただそれだけを願いながら黒子はゆっくりと振り向く。
振り向いた先にはいてほしくなかった、だけど黒子にとっては最愛の人がいた。

「き、せ、くん?」

確認するかのように呟く黒子の声は掠れている。
校舎と同じように夕日色に染まる黄瀬の顔と雰囲気はいつもよりも真剣で黒子は知らず知らずのうちに体を固まらせる。
いつから、どこまで話を聞いていたのか。
一番それが気になるが黒子はそれを問う気はなかった。
見つめられる瞳がすべてを物語っていたから。
多分、黄瀬はほとんど初めから聞いていたに近いだろう。
そんな確信が黒子にはあった。

「話があるんス、黒子っち。」

眉を寄せて近づいてくる黄瀬の声はいつもの軽い感じではない。
本気だとわかるその雰囲気に、黒子は思わず黄瀬に背を向けて緑間の方に向かって走り出す。

「黒子っち!!」

名前を呼ばれ一瞬だけ揺らぐが、黒子は構わず両足を動かし続ける。
身体能力は黄瀬に適わない。
こんな行動、一時的な逃げにしかならないとわかっていても今の黒子にはこれしかなかった。
逃げなければならい原因とも言える緑間を見ればいつもと変わらない顔をして傍観者になることを決め込んでいる。
厄介なことをしてくれた、と心の中で思いながら緑間の横を通り過ぎようとすれば黄瀬に聞こえないくらい小さな声で黒子に何かを呟く。
その意図がわからない黒子は眉を寄せつつも黄瀬から逃げるために全速力で走り抜ける。

「待って、」

ここで黒子に逃げられたら全て有耶無耶になってしまう。
ミスディレクションを使われたら厄介だがこの短い距離では絶対に捕まえることができると黄瀬は思っていた。
が、しかし緑間の横を走り抜けようとした瞬間、足に何かが引っ掛かり体勢を崩してしまう。

「うおっ!?」

間抜けな声を出しつつも、身体能力の高さ故に盛大に転ぶことだけは免れた黄瀬を黒子は少しだけ心配するがまたとないチャンスに構わず駆け出す。
緑間に足を掛けられたのだとわかっていてもそれよりも黒子を追うことで頭がいっぱいな黄瀬は気にせず追おうとする。
だけど動かそうとする足は思ったよりも上がらず、廊下に縫いつけられたような感覚を感じながら今度こそ前につんのめるような形で転んでしまう。

「っ、」

顔面から突っ込まないように咄嗟に両手をついたお陰で被害はないが、黄瀬の内心は穏やかではなかった。
転ぶ原因となった足元を見れば黄瀬が履いていた上靴の踵を緑間が素知らぬ顔で踏んでいる。
怒りに身を任せて怒鳴り散らそうと思ったが、緑間がわざわざこんな回りくどい事をしたのは何か言いたいことがあるからだとわかっている。
前を見ればどこかの角を曲がってしまったのか黒子の姿はない。
何もかも上手くいかないことに苛ついて低く舌打ちをすると上靴を踏んでいた緑間の足が離れる。

「何するんスか。」

怒りを抑えた黄瀬の声に緑間は疲れたようにため息をつく。
それに神経を逆なでされながらも黄瀬はただ睨みながら緑間の言葉を待つ。

「黒子の存在は俺たちが初めて認めた。」

一触即発の雰囲気の中、出された言葉は黄瀬にとって理解不能なものだった。
それでもそんな黄瀬を気にすることなく緑間は言葉を紡ぐ。

「初めの頃はあいつのバスケスタイルを周りは理解しようとしなかった。だけど俺たちは違ったのだよ。あいつの技術とスタイル、その存在をあのバスケ部で一番最初に認めたのは俺達キセキの世代。それは少なからずともあいつ自身の何かに繋がったはずだ。」

確かに緑間の言うようにキセキ達が黒子のその稀有な能力を認め重宝したからこそ、黒子は帝光バスケ部でプレイできていた。
それは黄瀬も感じていた。
緑間を初めとするキセキ達と黒子の結び付きは意外に強い。
存在が薄い黒子のことをキセキ達が認めたからこそ、逆に言えば黒子がキセキ達が認めてくれたとわかっているからこそ、何だかんだ言いながらも心の底ではお互いを想い合っているのだと言うことを黄瀬は理解している。
多分黒子にとってキセキ達は初めて自分を認めてくれた存在だろう。
だから黒子は無意識ながらもキセキ達を想うことを止めない。
そしてこれは高校が離れても続くだろう。
でもだからと言ってはいそうですか。と言って引き下がることは出来ない。
それに想うと言っても恋愛ではなく、友情のそれだときちんと黄瀬もキセキ達も理解している。

「最初から黒子っちを見てたからって、譲る気はないっス。」

時間なんて関係ない。
そう決意を込めた目で緑間を見れば、緑間の目が鋭く光る。

「光の方に存在しているお前に、アイツの何がわかる。」

緑間がどんなに大切に想っても、どんなに想いを募らせてもそれが黒子に届くことはなかった。
初めて出会った時から、黄瀬以上に長く想っていたのにそれを伝えることもできなかった。
黒子が自分たちの影に徹すれば徹する程その気持ちが読めなくなっていたから。
所詮、黒子から見て光の自分たちには影である黒子の気持ちなど読めるはずもないのだ。
そう思っていた。
だけど、黄瀬はどうやら違うらしい。

「わからないっスよ、黒子っちのことなんか。」

「何だと?」

真剣な瞳を携えて呟かれた言葉。
それは緑間の予想を大きく外れていたために盛大に眉を寄せる。

「わからないから、知ろうとするんスよ。わからないから、俺を知ってもらうんスよ。何もせずに諦めるのは嫌だ。だから俺は、黒子っちのことを諦めない。」

真っ直ぐに緑間を見つめる黄瀬。
相手を知ることも、相手に知ってもらうことも言うのは簡単だが実行するのは難しいことだ。
ましてや、人とあまり関わりをもとうとしない黒子なら尚更の事。
あしらわれたり、相手にされないことも多々あったが、それでも黄瀬は黒子が好きだったから諦めなかった。
いつもいつも黒子に纏わりついていた黄瀬の本心。
それがやっとわかり、緑間は張り詰めていた雰囲気を和らげる。

「……あいつを泣かせる事は許さないのだよ。」

「それだけは絶対にありえないっスよ。」

諦めるわけではないけれど、黄瀬も黒子もバカみたいに互いを想っている。
その間に緑間は無理に入る気はなかったので、何かを吹っ切るかのようにため息をつく。

「さっさとあいつを追いかけないと見失うぞ。」

「緑間っちが足掛けしなきゃこんな事にはならなかったんスけどね。」

「単なる意趣返しだ。」

「本当、性格悪いっスね。」

にこやかではないけれど、それでも先程よりかは幾分か雰囲気が和らいで交わされる会話。
認めたわけではないけれど、容認はしてくれているらしい。
どう言う心境の変化なのか黄瀬にはわからなかったが、今はまず先に黒子を探し出すのが先だと思い出す。

「お前の今日のラッキースポットは夕陽がよく見える場所なのだよ。」

駆け出そうとした時にかけられた声。
緑間らしい内容だが、どうして今そんなこと言われるのかわからない。
けれど緑間は気にした様子もなくさっさと追え、と言わんばかりの態度だ。
とりあえず覚えとくだけ覚えておくかと思った黄瀬は黒子を追うために走り出す。
今度ばかりは緑間は止めようとせずに遠くなっていく黄瀬の背中を見つめる。

「さっきはお前の味方をしてやったんだ。これくらいは黄瀬に手を貸してもいいだろう、黒子。」

真っ直ぐに前だけを見つめる黄瀬を見て、緑間は自嘲気味な笑みを浮かべてぽつりと呟くがその言葉は誰にも届かない。
けれど、緑間は気にした様子もなく誰もいなくなった廊下を見つめると黄瀬達とは反対側の道を歩き始めた。






「黒子っち!?」

勢いよくあけた教室の扉が盛大な音を立てるが黄瀬は気にせずオレンジに染まる教室内を観察する。

「またハズレ…。」

教卓の下、カーテンの中、掃除用具入れの中。
教室内で隠れられそうな場所を探すけれど目当ての人物はいない。
先程からずっと同じように色んな教室を見ているが、その痕跡すら見当たらない。
黒子の教室と下足箱を見た限りではバックも靴もあったために、校舎内にいることはわかっていた。
だが、色んな場所を見ているが全く黒子の存在を感じられない。
このまま目の前から消えてしまうことにどこか恐怖を感じ、黄瀬は自分を奮い立たせて立ち上がる。

「やっと、黒子っちの気持ちが聞けたのに。」

緑間に黒子が自分を避ける理由を聞いた時、怒りもあったけど一番聞きたかったのはどうして黄瀬だけには知られたくなかったと言うこと。
自惚れたくて、黒子が少しでも想ってくれるのか確かめたくて、黄瀬は黒子を探して話をしようと思った。
提出物を出しに職員室に行くと知っていたから、黄瀬は必死に職員室まで走った。
そうして見つけた黒子は緑間と何かを会話していた。
最初は立ち聞きするのもよくないと思っていたが緑間は黒子にキスをしたという前科がある。
だからこそ、黒子に悪いと思いつつも緑間との会話は聞かせてもらっていた。
黄瀬の存在に気付いていない黒子に対して、最初から気付いていた緑間。
変なことを言うつもりではないかと聞いていれば、知りたくて知りたくて仕方がなかった黒子の本心が聞けた。

『黄瀬君の事が、好きです。』

同姓から友情以上の感情を向けられて本来ならば嫌悪していいはずなのに、黒子はそれを受け入れてくれた。
そればかりか、黒子も同じような好意を自分に向けてくれていた。
それは限りなく奇跡に近い。
嬉しくて仕方がなかったけれど、黒子はどうやらいらないことまで考えていたらしい。
だからこそ黄瀬は黒子じゃないと意味がないと言おうとした。
他の誰かで補えるほど『黒子テツヤ』と言う存在は軽いものではないから。

「どこにいるんスか、黒子っち。」

息を切らし、校内を走り回るが黒子の姿は全く見えない。
各教室や図書室、バスケ部の部室にも行ったけれどその姿は確認できなかった。
煙のような消えてしまった黒子の行方が全く掴めなくて、黄瀬は重苦しいため息をつく。
もうすぐで見回りの先生が来る時間帯で、見つかってしまえば帰らざるおえない。
ただでさえ黄瀬は目立ちやすいのだから強制的に下校させられるだろう。
見つけられないことに苛立って窓の外を見れば傾く夕陽。
先程まで鮮やかにオレンジ色で染められていた校舎も少し暗い色に染まってくる。
こんなに風にゆっくりと夕陽を見つめることなど今まで少なかったので感慨深げに見ていればふと、緑間の言葉が思い出される。

『お前の今日のラッキースポットは夕陽がよく見える場所なのだよ。』

占いなんて、緑間ほど信じているわけではない。
だけど思い出した言葉が異様に離れない。

「これでハズレだったら恨むっスからね、緑間っち。」

真剣に呟いた言葉には知ったことか、と緑間からの返事が聞こえてきそうだ。
黄瀬はそんなことを考えて笑みを浮かべるとすぐに廊下へと出て全速力で駆け出した。
向かうはこの校舎内で夕陽がよく見える屋上。
黄瀬はそこに黒子がいることを願いながら階段を駆け上った。







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