あの夏程の衝撃はなかった。 貴方が生き延びられるとは到底思えなかったから。 だからいつか来るその日が、貴方にとって少しでもよいものであってほしいと、ただそれだけを願ってた。 精算終わった後も眼科の隅のソファーを占領して数ヶ月前からのモーニングを追い掛けた。 泣かないでいられたのは、空白の期間があるからと、記憶が薄くなっていたから。 あの時みたいな圧倒的な喪失感の代わりに、静かな歓喜に似たものが体に満ちて、もう少しで笑う所だった。 ねぇ、ほら。 最期の最後まで、あの人は貴方の唯一絶対の理解者だったでしょう。 最期の最後まで、誰よりもその意思を汲んでいたでしょう。 良かったなんて到底言えない。 無念でしょう。でもそれすらも貴方は愛せるでしょう。笑って受け止められるんでしょう。 だから敢えて良かったね、と言いたい。 伝えたいこと伝えられたね。 自分の手では成し遂げられなかったけれど、確かにその思いは伝わった筈。 誰よりも貴方が必要としていた、たった一人、同じ地平線に立てる人。 確かにその思いは伝わったから、後はあの人の判断次第。 きっとその未来は、貴方が思い描いた未来とは別のものになる。 きっともっと平和的な道を選び、今の世界に近い未来。 でもそれすら愛せるのでしょう。 敵対していた時も、あの人のやる事成す事、愛しくないものなんて貴方にはきっと無かったんでしょう。 あの人は全人類を愛してる的な事を貴方は言ったけど、貴方はあの人のまるごと全てを愛してるんでしょう。 だから、自分の願っていたのと違う未来が来ても、貴方はきっと微笑むんでしょう。 静かに穏やかに、昔みたいな人間らしい顔をして、何処か嬉しげに笑うんでしょう。 ああほら、良かったね、幸せだったね、貴方の生は無駄じゃない。 角松に、滝に、石原閣下に、確かに受け継がれているから、安心しておやすみ。 冷静で、誠実で、見て見ぬ振りが出来なかった優しい子。 その結果多くの命を奪う事になり、それを一人静かに受け入れ続け、敢えて神格化されていった悲しい子。 やっと人に戻れるね。 良かった…正直、一人ぼっちの貴方を見てられなかったんだ。 お疲れ様、ゆっくりお眠り。 きっとすぐ側まで津田が迎えに来ているだろうから、その後ろで山本長官が微笑んでいるだろうから、あんまり心配じゃないよ。 心配なのは、これからの『未来』のこと。 そうでしょう? 名前に海を与えられた子。 そこはきっと何処よりも、貴方が眠るに相応しい。 [グループ][ナビ] [HPリング] [管理] |