[携帯モード] [URL送信]

バシュッ

“こっちの貴方はまだお遊戯

 そっちの貴女はもうお友達

 あっちの貴方もまだお遊戯

 どっちも貴女ももうお友達”



バシュッ

“アナタは何して遊ぶ?”



「………っ、や……来ないで……っ!」



ずるずると顔の無い体を引き摺りながら、壁に青い文字を浮かび上がらせて近付いてくる青い人形に、グレーテルは悲鳴にすらならない声で拒否を示す。
もちろんそんな要求など呑んでくれる筈もなく、壁際に置いてきぼりにされた顔だけが愉しそうにキャキャキャと笑っている。

「…やだ……来な、来ないで……! ギャリーさん、ギャリーさん……!」

必死でギャリーを呼ぶ声も虚しく、青年には届かない。
引っ張ってでも連れて逃げようと試みるも、少女のか弱い細腕で大の男を引き摺って行くなど到底不可能で。

中途半端に腕を引っ張られてバランスを崩された青年の体は、不格好に床へと倒れ込む。
ゴンッと頭が地面にぶつかる鈍い音に、文字が浮かぶ時の射出音が被った。



バシュッ

“逃げるの? じゃあ鬼ごっこ”



キャキャキャキャキャキャキャキャキャ



耳障りな笑い声が再び部屋へと鳴り響く。
笑っている顔とは別行動している体の方は、ずるずると確実にグレーテルの元へ近付いて来ていた。



心を決めて、グレーテルはウサギの人形を抱えて立ち上がる。
本気で誰にも頼れない状況の今、自分一人で何とかするしかないのだ。

ギャリーと固まっているのはまずいと考えて、とりあえずその場から小走りに駆け離れる。
その軌道を追うようにして青い人形の体も進路を変えてくるが、心なしか這い寄る速度が速くなってきている気がした。

いや、気のせいではなく速くなっている。

ずるずると引き摺っていたような音も、カサカサとまるで虫が這い回るような音に変わっていく。
音に比例して速度も速くなってくるそれは、終いには全速力でやっと距離を保って逃げられる程にまで素早くなっていた。



カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ



だが全速力でそう長い時間走り続けられるものではない。
ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返して懸命に逃げるも、距離は縮まるばかりで。
酸素不足の小さな体は、ふらりとよろめき、足をもつらせて転んでしまう。



しまった、と思った時には、首の無い人形が目前にまで迫ってきていた。





→ 「48」


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!