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(…さっきのお兄さん……どこかで見たような気がするなぁ……。)

ウサギの人形を抱えてとことこ廊下を歩きながら、グレーテルは額縁型の扉を潜る。
扉を抜けた先の光景は、ささやかな疑問など跡形もなく吹き飛ばすような衝撃を与えるに充分たるものだった。



可愛いを通り越して気味の悪い青い人形が部屋中に散らばった部屋。

喉元まで出かかった悲鳴をウサギの人形に顔を押し付ける事で堪えたグレーテルは、そのまま何も見ないようにして部屋を駆け抜けようとした。
だが、前もよく見ない状態で地面に転がった人形を避けきれる訳がなく、その中の一つに足を躓かせて前のめりに転んでしまう。



ドサッ



幸い抱いていたウサギの人形がクッション代わりになって転んだ事によるダメージは受けなかったものの、躓いた原因である青い人形は首がもげてしまい、付け根の部分から赤い絵の具と綿代わりの髪の毛を覗かせていた。

「ひっ……!」

グロテスクな惨状に引き攣った声を上げて、思わず座ったまま後退さる。
だが流れてくる赤い絵の具は止まらない。
その絵の具がスカートの裾に付きそうな距離まで流れて来た所でグレーテルは我に返って立ち上がると、今度こそ部屋から駆け出して行った。



グレーテルが出て行った後もその赤は止まることなく流れていく。
と、壁に書かれていた文字がいつのまにか消えて代わりに床の絵の具が新たな文章を作り上げていた。



早ク連レテ来テネ。

皆デ遊ブノ楽シミニシテルンダカラ。

早ク遊ボウ。 何シテ遊ボウ。

アナタハ何ガシタイノ?



文章は完成すると同時に、新たな影に掻き消された。










「……ギャリー、さん………?」

少女は唖然と立ち尽くしている。



青い人形の部屋を抜け、正面にあった扉へと勢いで入ってみたら、そこには探していた青い薔薇の青年の姿があった。
見つけたと喜んだのも束の間、すぐに様子がおかしい事に気づく。

力無く壁にもたれた状態でへたり込んで目は見開いたまま一点をずっと見つめている。
否、視点が動いてないと言うだけで何も見てすらいないのかもしれない。
いくら呼び掛けても返答は返ってこないし、何の反応も見せないしで、耳も聞こえていないのかと思えた。

(何、これ……どうしちゃったの……? ギャリーさん……。)

目の前に立って視界を遮ったり、ウサギの人形を傍らに置いてギャリーの体を揺さぶってみるが、一向に変化は見られない。
いよいよ打つ手が見つからず、弛い涙腺が刺激されて涙目になった時だった。



ずるり



後ろの方で何か引き摺るような音がして、グレーテルは咄嗟にそちらへ目を向ける。

散乱した部屋の後ろの方から、首と体が千切れて離れ離れになった青い人形が、キャキャキャと耳障りな笑い声を上げてこちらを見ていた。





→ 「47」


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