(…………どこ、ここ……っ痛……!) 視界がぼんやりとしていて、位置・状況が掴めない。 何故だろうか、地面がやたらと柔らかい。 ふかふかしている。 全身を襲う気だるい感覚に、もう少し寝ようとウサギの人形を枕代わりに瞼を閉じようとした。 だが突如感じた鋭い痛みに、覚醒を余儀無く促される形になる。 起き上がったグレーテルは、背もたれに赤い装飾がされた白いソファの上にいた。 (…………どこ、ここ……。) 先程と全く同じ疑問を再度抱いて、グレーテルは辺りを見渡した。 部屋の隅には本棚が、丁度自分の真後ろに当たる壁には『憧れ』と題された桃色の額の大きな絵画がある。 ソファの横には立て札が立ててあり、そこには文字が書かれていた。 “疲れたなら ゆっくりお休み? もう苦しむこともなくなるから” 意味する所が理解できなかったのは幸いだったか、グレーテルは首を傾げると、ソファから降りようと地面に足を着けるが。 「………っ!」 チクリと右手に痛みが走る。 覚醒時に感じた痛み。 思わず目を向けるとそこには桃色の薔薇があり、そこで今までの記憶が蘇った。 (……あ……わたし、落ちちゃったんだ……。ギャリーさんは………。) 再度辺りを見渡しても、紫色の髪もボロボロのコートも見当たらない。 ギャリーが薔薇の茎に巻いてくれた切れ端も弛くなってたのかほどけていて、刺が剥き出しになっていた。 (……ひとりぼっちになっちゃった……。 やだ、怖いよ………ギャリーさん、どこ……!) じわりと涙が目尻に浮かび上がってくる。 ふるふると体を震わせながらきつく目を閉じるが、動かした手がウサギの人形に当たった感触を感じて、そっとそちらを見やった。 (そうだ……もう泣かないって、決めたんだ……。) グレーテルはぐっと口を引き絞めると、人形と薔薇を抱えて立ち上がる。 怖い気持ちを必死で抑えて扉へと向かい、ドアノブへと手を伸ばそうとした。 だが、 ガチャ グレーテルが引くより先に勝手に下がったかと思いきや、扉が自動的に部屋の外側へと開く。 否、扉を開けたのは黒い薔薇の男性だった。 |