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非常に面倒な事態に陥った、とジルベルトは舌打ちをする。
青い薔薇の青年は正気を失っているようだし、原因がもうひとつの部屋にある以上、そちらに重要な何かがあると考えるべきだろう。

既にこの部屋は、最初に入った時にあらかた調べ尽くしていた。



(この辺りが潮時か。 めンどくせェな。)

ジルベルトは目を見開いているギャリーを一瞥すると、それ以上気を掛ける事なく部屋を出る。
早い話が“見捨てた”のだ。

元々行動を共にした動機も単純なもので、この空間から出るために利用できるものはする。それだけのものだった。
いずれは別れるつもりだったのが、少し予定が早まっただけである。

またある程度理解は深めたものの、その為に『助ける』と言うような思考は生まれない。
強いて言うなら毒味役が居なくなったくらいの感覚でいるジルベルトは、ギャリーが最初に入った右側の部屋へと足を踏み入れた。



仕切り壁を挟んで回り込む構造の部屋は、入り口からはこれといったものは見当たらない。
壁に青い絵の具で書かれたような文字が所々書いてあるぐらいだろうか。

“永遠にここにいろ”

“お友達をかえせ”

“逃げられない逃げられない逃げられない”

恐らくギャリーが逃げている時に書かれたものなのだろう事が容易に想像できる。
そのまま壁を回り込んでみると、先ほど蹴り飛ばした気味の悪い人形の小さいのが、部屋中を埋め尽くしていた。

(ここで嵌められたってワケか。)

白けた目で視線を変えると、またもや壁に書かれた文字。

“何で出ていっちゃうの? 一緒に遊ぼうよ”

“ここはお友達がたくさんいるのに”

“貴方も一緒。 ずっとここにいればいいの”



「くっだらねェ。」



素直な感想を一言吐き捨てると、部屋の奥に掛けられた絵画を仰ぐ。
『赤色の目』と題されたその絵画は立派な額縁が掛けられているものの、肝心の絵はもぬけの空になっていた。

気になって調べてみると、絵自体が扉になっていたのか中に入り込む事ができた。
他に扉らしい扉が無いのもあり、ジルベルトはその絵の中へと入って行く。





その後ろ姿を、部屋中の全ての人形達が見て笑っていた。





→ 「44」


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