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「え…………。」

一瞬、いや数秒はジルベルトの言葉の意味が理解できなかった。
グレーテルの事を、気味悪い人形と言っ……―――。



キャキャキャキャ。

『バレチャッタ。ネェバレチャッタァ!?』



ずるり、と生々しく皮の剥ける音がしたかと思うと、グレーテルを型どっていた外皮が頭から捲れ落ちる。
捲れた皮の中からは青色が見え、次に目の玉がひっくり返って裏返ると、真っ赤な眼がこぼれ落ちそうな程肥大化して姿を現した。

余りの惨状に目を逸らすことさえ出来ないギャリーの目の前で、ジルベルトが躊躇なくその青い人形を蹴り飛ばした。
弧を描いて宙を舞った青い人形は壁に激突するとぐちゃっと音を立てて、身体中から赤い絵の具を壁に滴らせる。



ジルベルトには最初から青い人形が見えていた。
ギャリーが必死に部屋から飛び出して来た時から、部屋に逃げ込んで会話している時も。

何の為にこんな気味の悪い人形を抱えて走り出てきたのか、どうして親しげに話しかけているのか、理由を問い質そうとしてみればこの様だ。

「まンまと嵌められてンじゃねェよ!」

一喝してギャリーを睨み付けるが、当の本人はショックが抜けきっていないのか、焦点の合わない瞳でぶつぶつと何事かを呟いている。
何も映していない瞳は、まるで過去の記憶に捕われているようだった。





脳裏に浮かぶのは、青い人形が敷き詰められた部屋。
イヴやメアリーと分かたれて辿り着いたその部屋で、最後の絵の具玉を手に入れた時に起きた残酷な宝探し。

たった一人で人形達の腹を裂き、鍵を探していた。
溢れ出る髪や赤い絵の具にまみれながらようやく鍵を見つけたと思った矢先に、後ろから迫ってきた青い大きな影……。

その瞬間、世界が赤く染められた。





『自身が“壊れて”いるのを 自覚する事はできない』





どうかしてたのはグレーテルではなく、始めからギャリーだったのだ。





→ 「43」


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